FDAにみるアメリカの医療行政

アメリカの医感行政に大きなカを持つFDAに日本人として、
初めて正式な職員となった竹内正弘氏に、
後藤学園長が、アメリカの実状と、日本はそこから

何を学ぶべきかを聞く

プロフィール写真

竹内正弘 (たけうち まさひろ)
1955年、福井県生まれ。ハーバード大学で生物統計学の博士号を修得。日本人として初め
てFDAの正式職員となる。世界で初めて認可されたアルツハイマー病の新薬、タックリンの
審査においてFDAで初めて経時観察統計法を導入し、以来エイズ・がんの分野などで応用す
る。理学博士。

新薬の認可と統計の応用

後藤学園長
後藤
竹内さんは日本人で初めて、アメリカの国籍を持たない、アメリカから見
ると外国人で初めて、FDA(FOOD AND DRUG ASOCIATION・米国医療食品管理局)の正式な職員になられたわけですが、はじめにFDAについて簡単にお話しいただけませんか。
竹内
FDA は、どういうこと一般的にやっているかと言いますと、食品に関しては主に内容の表示の監督ですね、例えばオレンジジュースを買うと、オレンジ成分何パーセ ントで、ビタミンCが何パーセント、ビタミンAが何パーセント入っているかといったことを表示しなければいけません。その監督ですね。また医療関係では、 新薬が発売される前に検査しましてFDAが認めた場合においてのみ市販できる、という新薬の認可と、もう一つは医療機器で、会社側がこの医療機器はこれだ けの能力がありますよということを申請するのですけれども、実際にその能力があるかどうかということを確かめるわけなんです。こういったことを仕事にして います。
後藤
新薬の開発について、日本とEUがアメリカと同じような基準で標準化しょうという話し合いが持たれていると聞いているのですが、なかでもアメリカの基準が一番シビアだというふうに伺っているのですけれども、そうなんですか?
竹内正弘
竹内
はい、今のところはそうです。と言いますのは、新薬を開発する場合に、まず動物実験をしまして、動物実験が終わってから臨床試験、いわゆる人 体に薬を投与して検査するわけなんですけれども、その時に段階として、第1段階、第2段階、第3段階とありまして、それぞれにおいて必ず臨床試験をやる場 合にFDAの方に申請をしなければいけないことになっています。ところがヨーロッパと日本の場合、特に日本の場合は、その検査なしで第31段階まで全 部やった後に厚生省に申請するということで、ちょっと検査の方法が違います。
後藤
なるほど。その3者で話し合いがされているというのは、アメリカの基準まで、日本なりEUが合わせていくのか、アメリカが、少しやりすぎていたからまあこの辺にしておこうというのか、どちらなんでしょうか。
竹内
そもそもこれが始まりましたのは、それぞれの固にそれぞれの政府機関がありまして、例えば、エイズ薬とか抗がん剤とか、そういう場合ですと、今までの通例としましては、認可までにFDAで約4年から5年かかるわけなんです。その薬がいったん認められて、日本に来て、また4、5年かかる、と合計10年かかるわけですよね。いい薬はどこでもいい薬なんだから、それをやめようと、ある1つのデータを元にして3ついっぺんに統一していこうというのが動機なんです。特にFDAの場合には、データは臨床試験によってすべて数値で薬の効果を明示していきますから、統計学者がそこに関与して、統計的に物事を処理していくということなんです、それに対してヨーロッパが自分たちもそうしようということで同調してきまして、いま日本がどうするかという状況にあるわけです。
後藤
そういう意味では、日本では、医学とか、臨床の場面での統計の所用というようなことがまだちょっと理解されてそういう意味では、いないのかなというようなことはお感じになりますか。
竹内
統計学は日本は非常に発達していまして、すぐれた先生方も多いのですけれども、その理論をいかに医学の方に応用するかという面に関してはあまり関心が持たれなかったみたいない点がありまして、後れをとったというのが現状ではないかという気がしますね。
後藤
なるほど。
最近、何か1つのことをやるにしても、学際的にやっていかなくてはいけないということがよく言われていますけれども、それぞれの専門家は、同分の専門には口を出すなというような傾向があるような気がすごくしますね。
竹内
そうですね、薬の申請ですと、特にアメリカの場合は多民族の国家ですから、白人はこうであろうということで薬を認めましでも、それが実際に薬が市販されると、アフリカ系の人ですとか東洋系の人ですとか、メキシコ系の人とかいろんな方に投与されるわけです、そして食生活も違う、すべて追ってくる、だから思うようにいかないという面があって、どうしても一般的に判断できるように数値をとるということで統計学が入ってきたというのが始まりじゃないかと思います。

QOLと薬の評価

後藤
新しい薬の評価をされることで何かFDAで苦労されたというようなことがありますか。
竹内
特に末期がんに関して、今までは生存率がどれだけ高いかというところで薬を評価していました。しかし厳密にみればその生存率も1カ月か2カ月の差だけですので、どれだけの意味があるかとい うことで製薬会社の方も疑問を持ち始めて、クリニカル・ベネフィット、医療便宣性と言うんですが、そういうところが問題にされうようになり、、がんの場合 には必ずQOL、クオリティ・オブ・ライフが要求されます。それが、第1に絶対必要というものではないけれども、必ずQOLはとらないといけない。
後藤
今のお話は、Aという薬とBという薬を比べたときに、特に末期がんの人の場合、生存率で1カ月ほどAの薬の方が長いからAの薬の方が有意であるというような判断をするのではなくて、当然それは加味されるにしても、Bの薬の方が生存率はちょっと低いかもしれないけれど、QOLの改善には大変役に立つという場合には、やはりこの薬はこの薬として大いに評価するということなんですね。
竹内
そうです。
後藤
QOLというのは性活の質とかいうように訳をされることもありますけれど、非常に評価しにくい、あいまいな部分がありますね。
竹内
はい、そこで一般的に使われているのがブリュッセルにあるEORTC、ヨーロピアン・オンコロジー・グループが開発した質問事項です。いろいろQOLの質問事項があるんですが、英語でパリデイシヨン(VALISATION)と言って、必ずその質問事項で試してみて確認されないといけないんです。
後藤
まだ日本ではそういうものを盛り込んでのQOLの評価をするという話は聞いていないですね。アメリカ人とはかなり生活様式の遣う日本人にも合いますでしょうか。
竹内
例えば質問の内容では、今朝目覚めがよかったかどうか、気分がよかったかどうか、特に末期がんの方はすごくふさぎ込んじゃいますので、そのふさぎ込 みがないかとか、痛みがないとか、そういう一般的なことを聞きますから、たぶん日本人にも合うんじゃないかなという気がします。
そのほかに特に晶 近はもう一つ、クリニカル・ベネフィット、例えばがん患者の場合ですと、モルヒネの量が下がってきたとか、その日の健康状態を医師が診まして、その健康状 態の点数が上がってきたとか、特に大事なのは体重が増えてきたとか、食欲があるかとか、そういところが重視されるようになってきましたね。どうしてそうい うことが言われるようになってきたかと一言いますと、薬は効いていても副作用がすごく強くて、ベッドに寝たきりで一カ月生命を延ばすことが果たして患者さ んのためになっているのかどうか、というのが疑問視されるようになってきたからではないかと、ぼくは理解しているんですが。
後藤
なるほど。
竹内
医療というものに対する考え方の流れが少し変わったのかなと思うのは、まったくそういうことだと思います。やはり人問、心も身体も一体として存在しているんだから、ただ命だけ長らえればいいだろうという考え方から変わってきたんだということですね。
後藤
それは非常に大きな変化だし、いいいことだと思いますね。

権力の乱用を防ぐ自己規制

後藤
時々アメリカに行きますと、FDAのアメリカの人たちに対する影響々は非常に大きいなと感じますね。例えば昨年食品の表示が変わりましたが、アメリ カの人が何か買うときに、こう眺めてね、こう見て、こっちの方がちょっと塩が少ないからこっちを選ぼうといったふうに、FDAの影響によって生活の仕方を 変えていくと思うんですね。食品だけではなく薬も情報の開示をするわけですね。アメリカの人はラベルを見ながらものを選ぶ、薬なんかについてもそうでしょ うし、そこで向分の窓思による選択が重要になるわけですね。日本では情報開示は、いろんなおもんばかりがあってなかなか進まないところがあるんですけど、 一つはアメリカは多民族だからきちっとしておかなくてはいけないというのがあるんでしょうね。そういう意味では竹内さんのお仕事はアメリカの人々の生活に 大変大きな影響を与えているなと思いますけど、そのへんはアメリカで生活しておられるときに感じられますか?
竹内
特にFDAの場合は、アドバイザリー・コミティーと言って、諮問委員会議とかいうのがありまして、そこで話し合われるんですが、そこに必ず証券会社の人が来ているんですね。FDAが新薬を認めるか認めないかで株価が変わるわけですね。一昨年の7月にはFDAの決定で世界で一番大きい製薬会社の株価が半分に下がったという例があります。
後藤
経済にも影響しますし、普通の生活にも大変大きな影響を与える。するとFDAがものすごい強大な権力になっていく可能性がありますね。現実に大きな力があると思いますけれども。あまり強大になると、汚職の問題とか、いろんなものが出できたりする可能性がありますが、それを規制する力があるのか、それともなにか内部にそうならないための向自己規制みたいなものが働いているのか、そのあたりはいかがですか。
竹内
ええ、あります。新薬の場合、例えばある審査官が判子を押すか押さないかによってその会社の業績がかなり違ってくるわけですね。だから必ず担当の審 査官が相手の会社の株は持っていないとか、逆に反対の会社の競争相手の株を持っていないとか、すべてチェックがあります。さらに製薬会社の人と話をする場 合には、必ずCOSと呼ばれる専門の方が聞に入られて、製薬会社の人の言ったことと自分たちの言ったことは、お互いの確認のもとで、お互いにサインをし て、すべて記録されるのです。だから汚職とかいった問題は非常に起こりにくくなっています。
後藤
いま、日本では血液製剤によるHIV感染や、厚生省と製薬会社の関係が大きな社会問題になっていますが、今日の竹内さんのお話をぜひ医療にたずきわる方に聞かせたいですね。

※オンコロジー(Oncology)=腫蕩学


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