在宅介護の現場から

家族の介護力を引き出し、家族と考える介護を

介護保険法が成立、新システムの導入に向けて走り出した。
しかしまだまだ未知の問題も多い。
これからどのような問題が生じ、どのように対処していかなければならないのか。
机上の議論ではなく、現場の声を聞いてみた。

プロフィール写真

長島睦美 (ながしま むつみ)
1946年長崎県生まれ。活水女子短期大学英文科卒業。世田谷中央看護専門学校卒業。保母の仕事を経て、介護福祉士。社会福祉法人成竹会理事。ダスキンのホーム・ヘルスケア事業部に勤務し在宅介護に従事する。

家族の介護力を引き出す

長島睦美さん
後藤
いまのお仕事にお入りになるまでのことをお話しください。
長島
学校は福祉とは畑違いでした。通信教育で保母の資格を取り、 10年ほど保母の仕事をしていました。その後、目黒区の社会福祉協議会で在宅サービスに週に2~3回の有償ボランティアとして参加していました。研修制度 はありませんでした。仕事を続けるためにはきちんと勉強が必要だと思い、看護学校に入り看護婦の資格を取り、ダスキンの在宅サービス部門でパートでヘル パーを始めたのです。その後コーディネーターの仕事もするようになりました。
平成7年に品川区に24時間の巡回介護サービス(全国7か所。国のモデル事業)が計画され、入札ではなく、品川区はプロポーザル方式でした。仕事の内容が重要で、ヒアリングの結果、ダスキンヘルスケアが採用されました。
後藤
介護サービスの体制と内容はどういうものですか。
長島
深夜は2人1組です。何かあった時も対応がしやすい。家族のいない利用者に急変が起きた場合、利用者を置き去りにはできません。1人はそこに残り、1人は次の巡回に出かけることも可能です。深夜は排泄の介助がほとんどです。オムツの方、尿器を使う方、トイレでしたい方とさまざまです。必要に応じて介助します。体位が変えれない方の体位交換や着替えも。時間は10分から15分ぐらいでも、2人ですから、ほとんどのことができます。日中帯は食事のセットが主です。服薬の確認もします。
後藤
モデル事業が行われた期間はどのくらいだったのですか。モデル事業として得たノウハウの報告は出ていますか。
長島
東品川の福栄会で2年間。平成8年には同じ品川区の三徳会という法人で24時間滞在型サービスの混合型が始まり、昨年4月から1法人1事業者ということになり、今は三徳会のエリアでヘルパー派遣をしています。
24時間巡回介護サービスについては、3ヵ月、6ヵ月ごとに効果測定の結果が報告されています。時間の短さや、回数の不足などのマイナス面が分ります。プラス面は、利用者だけではなく家族にもあらわれています。介護地獄というようなものではなくても、一人で介護をしている家族が多い。毎日ヘルパーが訪れることにより、家族の方も安心する。寝たきりの方も、笑顔や言葉が出たりします。一緒に歌をうたったり、短い時間の中でもそういうことをしますから、精神の活性化が効果としてかなり目立ちます。
後藤
効果例を詳しく教えてください。
長島
お年寄りは何らかの病気を抱えています。高齢の方もいます。体力も少しずつ低下していくという状況で、介護をしなければならなくなった家族はとまどいます。ある家の玄関を開けたらすごい排泄臭がする。家の中には、あちこちに便もつけてあるし、悲惨な状況でした。家族は家で面倒をみたいという気持ちはあっても、どうしていいのかわからない。
毎日清潔にしていくことで、家族も、介護の第一歩に気づくようになるようです。行くたび換気をしますから、排泄臭も消える。汚れた着物をまめに取り替え、体もきれいにする。多少でもサービスが入ることで、お年寄りに対する気持ちも、やさしいものになるようです。
後藤
24時間の場合、訪問宅の出入りはどうしていますか。
長島
家族がいても昼間は留守になるとか、時間帯によってはお年寄り一人になる場合もあり、昼夜問わずカギをお預かりしています。最初の訪問の時にカギのことやサービスの内容を確認しますが、カギを預けてくださる方は、それだけ介護に逼迫しているわけです。自分たちが寝るぎりぎりのところで来てくれればいいと、カギを預けることについて躊躇する方もいますが、やがて信頼関係が生まれ、預けるようになります。
後藤
家族に、介護をヘルパーに依存する状態は生じませんか。
長島
往々にしてありますが、介護はヘルパーが全部することではないし、またできることでもないんです。家族の介護力が大事です。その介護力を引き出して、一緒に在宅生活を支えていくようにします。どこまでヘルプするのか、その見極めは難しいことですが、何でもしてしまうのではなくて、ヘルパーの守備範囲と家族の役割を上手にコントロールすることが大切になりますね。家族からいかに介護力を引き出すか、家族が可能な介護を家族と一緒に考えることが大切ではないでしょうか。

介護保険法案の問題点

前日の介護利用者の状態を申し送りするミーティング
後藤
介護保険法案は、利用者の選択にるサービスを主軸に据えています。家族を含め利用者の主体性や自立を考えてのサービスメニューであるとされています が、利用者の主体性と介護そのものは、ケースごとにずいぶん違うでしょうから、介護保険法案にあるケアマネージャー(介護支援専門員)の判断が重要になる はずです。ケアマネージャーの技量は人によって異なることもあると思います。
認定の最初の判定も、判定の基準が違ったり……。痴呆の方は日ごと、時間帯ごとで状態は変化するでしょうから、判定が難しいのではないでしょうか。
長島
そこが介護保険法案の問題点の一つだと思います。ケアマネージャーの資質がとても大きな要素になるはずです。
後藤
長島さんはケアマネージャー的な立場ですか。
長島
ヘルパー担当です。品川区では、支援センターのケースワーカーがケアマネージメントをしています。ケースワーカーは常に現場に行っているわけではなく、日々の状況や情報はヘルパーがつかんでいます。わたしはその報告に基づいて、ケースワーカーと情報を交換し、ケースとプランの見直しを協議しています。
後藤
入浴時間の希望があるかと思いますが、利用者のリクエストとプランを立てる時の兼ね合いは、どうしていますか。
長島
巡回型には入浴サービスはなくて、滞在型に限られます。朝7時から夜7時までが基本時間ですから、その中でということになりますが、ヘルパーは非常勤、パートの人が多いので、希望時間にそうのは難しいのが現状です。
後藤
希望が満たされないことで、コミュニケーションが疎外されたことはあるでしょうか。
長島
あまりないようですが、行政側には介護保険の導入が頭にあるせいか、ヘルプにもう少し出たほうがいいとプランしても、予算もあり、サービス時間や回数が少し厳しくなっています。
後藤
公的な機関と半官半民の介護支援センター、民間の企業、その三者の混合が現在の方式ですが、介護保険が導入された場合は、そのスタイルが変わってくるのではないでしょうか。
長島
品川区の場合はまだ分りませんが、介護保険は利用者が介護提供先を選べますから、民間組織は質の維持と向上を計らないと、成り立たないと思います。その意味で、変化があるのではないでしょうか。
後藤
利用者の選択の自由は実現するべきだと思いますが、今の流れでは、ケアマネージャーが采配を振るうことになるのではないでしょうか。民間のほうが好きな時にお風呂に入れ、介護者も選べ、いろいろなサービスを頼める。しかし、利用者の希望すべてを受け入れることは不可能ですから、誰かが判定をしなければならないわけですから。そうであっても、民間企業が参入することにより、融通がききにくい公の仕組みが活性化するはずです。一方で、介護料のことが問題になるはずですが……。
長島
現在は区と国の基準に基づいた金額で、ゼロ査定の方から所得の課税額に応じて負担をするシステムです。委託事業の場合は区から費用が支払われますが、企業としてはギリギリの収支でしょう。
後藤
現時点で利用者の支払いは一人いくらですか。
長島
朝9時から夜9時の巡回の場合は時間単位で算出し、1か月の延べ時間の請求になります。所得によって1時間当たりゼロから1310円の6段階。深夜の場合は品川区ではゼロ査定がなく、1回当たりの金額が最低1回100円から750円の幅です。国にはゼロ査定もあります。
後藤
民間企業と公的機関について、それぞれ感じられたことはありますか。
長島
民間のメリットは、立上がりが早いということです。24時間の巡回介護サービスは計画から三か月でスタートできました。質の良い効率性はもちろんですが、即応性は民間の一つの特徴ではないでしょうか。深夜でも巡回が必要だということになれば、人員体制を整えて、その日から始められます。
公的な仕組みで困るところは、本人のみを対象とした基準になっていて、家族の介護力をどう評価し、どう反映するのか、そこが欠けています。
後藤
判定基準についてのお考えはいかがですか。
長島
マネージメントはしていないので、確かなことはいえませんが、判定は利用者とその家族の状況に基づくものでなくてはいけないのではないでしょうか。情報を得て判定し、家族をまき込んでの介護を設定し、プランを作るべきだと思います。

介護は共に生きることを考える仕事

ヘルパーは昼間は自転車で介護利用者宅を訪問する
後藤
介護保険法案では、医師を初めとする医療の人たちがケアマネージャーになるための講習を受講する資格があるとなっていますが、看護の勉強をなさったことが、ヘルパーとしての仕事に役に立っているでしょうか。
長島
状態を見てどういう経過をたどるかの判断の目安になると思います。夏に食欲がないという場合は、脱水症状になるとか。尿の量に注意して、排尿があれば、お茶などで水分補給をする。そういう知識一つにしても看護婦の経験は役に立っています。
後藤
医療関係者は、患者の生活のある部分だけで関わり、治したい意欲もひじょうに強い。介護は、治すということよりもケアという部分で関わる、つまり共に生きることを考る仕事ではないかと思います。医療と福祉の融合ということからいえば、医療関係者がケアマネージャーをやることはいいことでしょう。しかし、おっしゃるように生活全般に関わる仕事ですから、ケアマネージャーになろうとする医療関係者は意識の転換、変革をなさないとだめだと思いますが。
長島
それはさまざまな場面で感じていることです。互いに時間をかけて、解決していかなければならないことでしょう。
むしろ問題は、働く場が確保されないことです。処遇もきちんとしていない。ヘルパーの資格は2級以上の研修を終えて、実務につくという形がとられています。介護福祉士の資格をとっても、それを活かせる職場がなかなかありません。そういう場所や見合った処遇を用意しなければ、定着しないのではないでしょうか。施設に所属していればある程度処遇はきちんとしていますが、1ヘルパーとして生活を成り立たせるとなるとなかなか難しい。家族を抱えた男性はもちろんですが、部屋を借りて1人で暮らしている男性でも女性でも、今の待遇では生活していけない。働きがいのある収入と職場作りが大事です。大変な仕事ですし、人の人生を抱えこむ時があるので、それなりに心にゆとりのできる環境ができるといいですね。
後藤
そういう意味では民間の企業が、もっと参入してきたほうがいい。企業に所属することで、働く安心感も出てくるでしょうし。今の仕組みでは公務員として採用されないから、地位が安定していない。しかし、民間の企業に賃金を期待しても無理ではないかとも思います。
後藤
国は介護福祉士が少ないから増やすといいますが、その社会的な基盤ができていない。介護保険金がどう使われるかもはっきりしていません。それに利用者が選択できるとなってはいますが、介護料も明確ではない状況ですね。
長島
情報の提供にしても曖昧で、利用者は何にも選べない状況です。介護福祉は高齢化社会を迎え、ますます重要なものになることはまちがいありませんが。
後藤
福祉、医療関係者が力を合わせ理想のシステムを実現したいものです。

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