気づきを与えられる看護記録
フォーカスチャーティングが拓く看護の世界
フォーカスチャーティングという、患者のための新しい看護記録の方法がある。
これまでの看護記録とのちがいや優れたところは何か。
医療現場で実践し研究している臨床の看護婦さんにその実用性、
有効性、応用性を聞いてみた。

川上千英子 (かわかみ ちえこ)
東京衛生学園看護科卒業、元埼玉県八潮市八潮中央総合病院総看護婦長。フォーカスチャーティング研究会代表。
フォーカスチャーティングとは
川上千英子さん看護診断は重要ですから、勉強し続けていたのですが、実際の臨床ではなかなか活用がむずかしい。さまざまな看護記録方式を使っても、うまく書けないんですね。
移った病院に東京都の業務改善看護研究費をいただき、コンピュータを使って看護支援システムというのをつくってみたことがあって、ボタンひとつで看護計画が出るはずだったんですが、うまくいかない。コンピュータでは標準的なものしか対応できないということを実感しました。
記録というのは看護婦さんが患者さんと向き合っていないと、やはり書けないことがわかりました。
それを考えると介護や看護の問題は、これまでのように他人事としてはすまされないし、マニュアルのまま対処するという方法では通用しにくくなると私も思います。コンピュータの標準的情報ではない、個人個人が独自に適切な情報を選び的確な判断をすることが大事になってくるのでしょうね。
でも、ひとりの人間を把握するのはとてもむずかしい。そのためにいろいろな方法論があったわけですが、従来の方法では的確な看護に結びつかない面があったということですね。
具体的には患者の心配事や関心事や行動、状態の変化、重要な出来事(トピックス)などにフォーカス(焦点)を当てて経過を記録していきます。フォーマットには、日時、フォーカスコラム(欄)、それに経過記録として①患者のデータ(主観的、客観的情報)、②実行(看護介入・看護実践の内容)、③ 反応(実行に対する患者の反応、評価)などを記入するところがあります。
その点、フォーカスチャーティングは経時記録も経過記録も同時に読み取れますし、大きなメリットはそのフォーカスコラムをタテに読むことで、患者さんの全体像がすばやく的確に把握できるということでしょう。読み取りやすいことも優れていますが、これまでのものとちがって書きやすいのも利点です。
日本でも今後、アセスメント能力というか、フィジカルアセスメント能力、看護婦さんの診断能力が要求されていくはずですが、そのためにもフォーカスチャーティングが必要になってくるはずです。
記録は患者のためにある
看護記録実習(東京衛生学園看護科)たとえば、看護学生は実習では、まず患者さんを受け持たされますね。学生であっても患者さんのことがわかるはずですが、すぐには看護記録を書かせないんです。ちがう用紙に書かせて、それを写していいかどうかは看護婦さんが判断する。そういう形がいまの看護の世界ではとられていますが、私はおかしいと思います。学生でも患者さんを看護しているわけですし、患者さんのための記録と考えれば、書かさなければいけないし、書けるように指導しなければいけないと思っています。
ところで医療の共有化の第一歩は、患者さんも医療を提供する側も自立することからはじまるんでしょうね。自立するためにはお互いに拠って立つ場所が必要になってきますから、それには共通の理解と、共通の言葉が必要になると思います。フォーカスチャーティングはそのための方法論の一つでしょうね。誰が読んでもわかる、誰でも書ける記録の仕方は重要なことです。
日常の出来事を記録する大切さ
ところで、どこをどの程度まで記録しなければいけないんですか。

ここにポイントをおいたから役に立ったとか、これだったら役に立つとか、そういうことを通して判断能力が高まると思います。
そういう点で、フォーカスチャーティングは誰でもわかる記録方式ですから、さまざまな現場で使えるということで、研究会が発足しました。いろいろな分野の方と記録に対する意見を交換して質の向上をはかる場を目指しているところです。
介護の方は知識がありませんでしたが、先日、老人保健施設と特別養護老人ホームに講演に行きました。家の人がお正月に迎えに来ない、そういうことがかなりあるというんです。その様子の記録を家族に送ったらどうですか、と話しました。実際に記録を送った施設もあり、それで家族の人も夜中のおむつ交換のことや徘徊している状態や介護の様子がわかったそうです。そういう面でも一般の方が見てわかる記録は大切だと思いました。
気づかなかったことに気づかされる
新人の看護婦さんも読めるし書けるのですから、記録する人がそれまで自分が気がつかなかったようなことに気づかされる。患者さんに対する視点が多面的になってくるということはありませんか。
医療の分野だけではなくて、社会全体でコミュニケーションのとり方の問題があるといわれていますね。意見やものの見方がちがう人に対する理解が、欠けているような気がするんです。
きちんと記録することによって、人と人との相違が浮かびあがることがある。自分とちがう考え方や意見がある、自分はこれまで人と接していて、こんな面しか見ていなかったが、実はそうではないんだという、気づきを与えられるような気がしますね。
他者を認めることは自己を確立することですから、自己実現のためにもこの方法は役に立つのではないかとも思います。
患者が自分で書くフォーカスチャーティング例
〈事例紹介〉
自動車事故により顔面と足膝を打撲し、意識喪失、救急車にて運ばれた。
入院後約1週間は安静を強いられ抑鬱状態が続いたが、入院後2週目頃から打撲症状が緩和し回復がみられはじめた。
入院後4週目になると「そろそろ退院してもよい」と担当医から言われる。
その後退院され、健康であることの大切さを改めて感じておられる事例である。

介護の現場でフォーカスチャーティングを応用する
〈事例紹介(利用者のプロフィール)〉
利用者: ○○○○さん 66歳(男性) 入所日:1997年6月2日(在籍年数1年6ヵ月)
現病歴: 心房細動、心不全、狭心症、脳梗塞
身体状態: 麻痺/左上下肢に軽度、会話/可能、聴力/良好、視力/眼鏡使用、痴呆/物忘れ程度、
食事/常食、常薬、歩行/杖歩行、入浴/自立、排泄/自立、洗面/自立、衣類の着脱/自立
生活歴:20代に家を出、日雇い人夫など職を転々とし、20年程前から市内の建設会社に勤務。脳梗塞を発症し左半身不自由のため、就労不可能となってからも雇い主の好意により住居などの援助を得ながら単身生活を続ける。その後不規則な生活のため入退院を繰り返すようになり、症状の不安から主治医の勧めもあり入所に至る。
入所後の経過:在宅中は不規則な生活だったということだが、特に訴えもなく、安定した生活を送っている。4ヵ月過ぎた頃には、サークルへの参加にはあまり積極的ではなく、むしろ前の職場への外出や、職員との囲碁を楽しまれている。また、ホーム企画の相撲観戦や一泊旅行には積極的に参加され、大変喜ばれてもいる。一時時期はデイルームにいらして痴呆の方々ともあたたかくお話しされ、ムードメーカーとなっていたが、居室テレビ置かれるようになってからは、部屋に閉じこもりがちである。今後も外出のきかいを増やすなどの働き掛けをしていきたい。

自分で記載するフォーカスチャーティング

フォーカスチャーティングに関する書籍のご案内

『本当のフォーカスチャーティング│フォーカスチャーティング研究会誌1号』
(フォーカスチャーティング研究会編 日総研出版 1600円)

『フォーカスチャーティング 活用ガイド』
(川上千英子著 日総研出版 1700円)

※フォーカスチャーティング研究会に関するお問い合わせは下記までお願いします。
フォーカスチャーティング研究会事務局
〒140-0003 東京都品川区八潮6-37-210


