国際学術交流の意義を考える

カリフォルニア州立大学ロングビーチ校・健康福祉大学と当学園との
学術交流は、まる13年間に及び、これまで数々の成果をもたらしてきた。
同大学のドナルド・ラウダ学長はこの間、アメリカにおける
リハビリテーションや看護分野の状況を伝えてくださっている。
先ごろ当学園を訪れた同氏に、学術交流の意義と展望をあらためてうかがった。

プロフィール写真

ドナルド ラウダ
カリフォルニア州立大学ロングビーチ校・健康福祉大学学長

相手を知り自分に気づく学術交流

ドナルド・ラウダさん
後藤
本日は後藤学園にお越しいただいてありがとうございます。当学園と先生の大学との学術交流について正式調印したのは1986年で、最初はリハ ビリテーション学科が、翌年からは看護学科が毎年研修にうかがうことになりました。以来13年になるわけで、数々の交流や共同研究を進めて来ましたが、先生は特にどのようなことが印象的でしたか。
ラウダ
後藤学園との交流では、学生だけでなくロングビーチから教師たちも訪れて講演などを行っ てまいりました。いろいろなことが思い起こされますが、私自身を含めていちばん成果があったと思われるのは、後藤学園で進められている東洋医学を経験した ことがきっかけで西洋医学以外の医療分野に目を向けることができたということです。我々の大学全体が大きな影響を受け、それが地域にも広がってきました。
後藤 先生の大学は国際交流をさかんに進めておられますが、後藤学園も国際化にはおおいに力を入れております。こうした国際交流の必要性、意義についてどのようにお考えですか。
ラウダ
我校は世界106ヵ国と交流があり、いろいろな分野で学生や教授が行き来しています。
大学の基本的な精神は、いろいろな国の考え方を受け入れあらゆるものを学生に紹介しようというものです。ですから、我校の学生がいろいろな外国へ出かけて自分の目で見たり、あるいは住んだりする経験を積むことを重視しています。私は個人的な考え方として、若い頃から知識、文化、ものの考え方は一ヶ所にとどめておくべくではなく、それぞれが交換して高め合っていくものだということを信じていました。この度、後藤学園を通じて中国とも交流できるようになったように、そうした自分の考えは非常に正しかったと思っています。
後藤
国際交流は、違う文化を学んだり、知識を得ると同時に、自分のアイデンティティを知るきっかけにもなると思います。自分の日本人としてのものの考え方に気づき、そのことにより相手とぶつかり合うということではなく、違う考え方、すなわち相手を認め、より協調できるようになるということではないでしょうか。
ラウダ
その通りです。習慣や価値観の違いを学ぶ一方で、自分を発見することにもなります。学生たちは外国にいけば必ず何かを学び、吸収してきます。外国へ行って「無意味だった」とか、「よくなかった」という者は1人もいません。

医療教育の学際化を促進

アメリカのPT研修
後藤
現在はインターネットも広がり、情報化、国際化が進んでいますが、次には学際化が大きな課題になります。たとえば当学園の場合、各々の専門分 野を学ぶわけですが、次には自分のやっていることばかりではなく、違う分野にも目をむけることが大切だと考えます。先生の大学では、カリキュラム面でもそ うした考え方を取り入れておられますね。
アメリカでの看護学科研修生
ラウダ
私の大学では学際化の講座があって、その中でいろいろな分野の人が集まったら、どのように 考え方をまとめていったらいいか、どういうものを作り出したらいいかということを学んでいます。私個人としては今、代替・相補医療についての講座を持って いて、いろいろな国で行っている非西洋医学の治療について、デモンストレーションも含めた形で学べるようにしました。もう1つ、看護科にはさまざまな諸外 国の医療文化を勉強する講座があります。たとえばメキシコでは、つねに病気にならないためのおまじないの腕輪を付けているのですが、西洋医学の病院では手 術を受ける時、裸になって身体を洗うためにそれを外さなければなりません。そのために精神的な打撃を受けて、症状が悪化することもあるわけです。このよう にそれぞれの国の人が持っている独特の医療観について、研究課題を与えながら学んでいます。
後藤
多民族の国家であり、考え方の大きく異なる人たちが同居するアメリカで、そのように1つの方向にまとめられるというのはふところの深さであり、人間の可能性を感じさせるところです。先生の講座はいつから、どのような形で始められたのですか。
ラウダ
4年前にアジアの健康維持法、いわゆる養生学の講義を始めました。そして、この九月から講義の名前をコンプリメンタリー・メディスン(相補医学)というものに変えまして、NIH(国立衛生研究所)の方針に則って代替・相補医療に関するレクチャーを始めております。アメリカでは大学の医学部や看護学部の90%が代替・相補医療について講義をしていますが、実際の運用は非常に曖昧なものになっていて、場合によっては一年間に一時間だけの講義というようなものも混じっています。これに対して、私の持っている講座は1回3時間ずつ、15週にわたって、アメリカにおける代替・相補医療の現状や、政府の方針、NIHの取り組みに関する最新情報を講義し、アメリカで知られている療法の中からピックアップして紹介します。中身は、それぞれの療法の歴史と理論、そして治療効果、あるいはアメリカ医師会の見解、ライセンスの仕組み、保険がカバーするかどうかを話し、最終的には各臨床家にきてもらって教室の中でデモンストレーションしてもらっています。
後藤
どんな代替・相補医療をご紹介されるのですか。
ラウダ
まず中国伝統医学の鍼治療と漢方薬(薬草学)を取り上げ、そのほか、カイロプラティック、アーユルヴェーダ、ホメオパシー、瞑想、マッサージ、手かざし療法に近いセラピューティック・タッチ、プラニック・ヒーリングなどです。
最後のプラニック・ヒーリングというのは、フィリピンに伝えられる心霊治療で、外気功に似たものです。製鉄で有名なカイザーという会社はたくさんの病院を持っていますが、これらの病院で実際にプラニック・ヒーリングを治療に使っており、手術の予後がいいとか、痛みを抑えられるというデータも出ています。たとえば、アメリカの男性に多い前立腺がんの検査では、尿道や肛門にガラス管を挿入しますが、麻酔薬を使っても患者は激痛に見舞われます。これに対してプラニック・ヒーリングを用いれば痛みを和らげることができるのです。こうした療法を取り上げることにより、学生に心の問題について考えてもらえると思っています。
私の講座には聴講生としてぜひ参加したいということで、たくさん電話がかかってきているところです。
後藤
ところで、アメリカではそれらの医療のライセンスはどのようになっているのでしょうか。
ラウダ
カイロプラティックは免許制ですが、アメリカは合衆国の制度下にあるので、それぞれの州でライセンスが違います。鍼の場合も、カリフォルニアでは免許を与えられた人は漢方薬も扱いながら開業できますが、他の州では医師のもとで治療を行うことになっている所や、ある州では医師以外の者は鍼治療をしてはいけないと定められています。
後藤 私たちはアメリカならみな同じだと勘違いしやすいですが、実際には「50のアメリカ」があるわけですね。そのなかでも代替・相補という流れは全米的に見られるのですか?
ラウダ
たとえばカリフォルニアでは南アジアからの移民がたいへん多く、東洋医学が文化として入ってくるので、西海岸はいちばん最初に代替・相補医学がさかんになりました。続いて東海岸でも動きが活発になっています。しかし、アメリカの中部になると鍼の治療院などほとんどなく、私の出身地ネブラスカなどになると、わずか一ヶ所しかありません。もちろん全体的に見れば、代替・相補医学の流れは大きな潮流になっています。
後藤
アメリカ人がそういう医学に関心を持ったり、先生がこういう講座を開こうとした背景はどこにあるのでしょうか。
ラウダ
まずいろいろなメディアがさかんに代替・相補医療について報道するようになってきたこと、また、国家としてもFDA(食品医薬品局)やNIHがこの分野での研究について発表し始めたことがきっかけでした。
一般の人たちにも広がった理由の1つには、アメリカの医療費が高騰し、西洋医学の患者の負担が非常に大きいことが挙げられます。このため病気が重症化するまで病院に出かけないというのがあたりまえになって、手遅れということもしばしば起こります。医療サービスの内容にも問題があって、アメリカの医師は診察に平均六分しか使わないといったことに対する不満が大きく、HMO(会員制健康管理機関)の発達という現象も見ることができます。この点、東洋医学ならもっと長い時間をかけてゆっくり診るし、現実的に医療費も抑えられるわけです。
現実的にはインターネットの検索エンジンで「Alternative Medecine」と打ち込んで検索するだけでおびただしい項目をコンピュータから探すことができます。このように、代替・相補医学はアメリカ国民の中に非常に浸透しやすい状況になっているのです。
後藤
先生ご自身や周りの方々にもそのような医療は受け入れられていますか。
ラウダ
私にとっていちばん身近なのは鍼で、アメリカでも毎週治療を受けています。また、漢方薬も毎日飲んでいます。それから、私は専門家ではありませんが、できるだけ瞑想もするようにしており、マッサージも受けています。あとはエクササイズもとり入れており、歩くことも好きで、以前はジョギングをしマラソン大会にも参加していました。日頃いろいろな人からどんな治療を受けたらいいか、あるいはどんな漢方を飲んだらいいか、アドバイスをしてくれと言われるようになっています。

「患者が選ぶ」時代の医療チームワークづくりを

サンフランシスコで行われた代替・相補学会
後藤
日本では最近、情報をオープンにして自分自身で医療を選択できるようにしようということが言われるようになりましたが、アメリカではとっくの 昔にそういうことが言われていて、一般の人たちが代替・相補医療の情報を得て自分の責任において選ぶようになってきたわけです。そうした情報というのはた くさん流通しているはずで、その中には良質な情報とそうではない情報も入り混じっています。情報はどのようにして取捨選択されているのでしょうか?
ラウダ
いちばん大きいのは、実際試した知人から聞いたりするケースだと思います。最近、私の友人の1人ががんで余命1年以内と宣告されたのですが、彼など もこれからいろいろな療法を試していかなければならないし、代替・相補医学的なものにも取り組んでいくでしょう。残念ながら最終的にそれは間に合わないか もしれないけれど、そういうことをきっかけにさまざまな人がこうした医療分野に目を向けていくことになるわけです。
後藤 その中で私が一つ気になるのは、カルト宗教に近いのではないかと思うような療法が横行していることです。早く的確な治療を受けておけば治るのに、むやみにそうしたものにすがろうとするという面が見られ、危険な傾向だと思います。
ラウダ
中には西洋医学を完全に否定するグループも出てきており、それはたいへん危険だと思います。ただし、アメリカでの調査によれば、代替・相補医療を選ぶ人は高学歴者、高収入者が多数を占めており、その点は救いだと考えています。
後藤 10月17日、サンフランシスコでスタンフォード大学とハーバード大学共同主催の代替・相補医療に関する学会があり、私も先生と一緒に参加させていただきました。この学会で特徴的だったのは、そうした医療の社会的影響に関する発表が中心になっていたということです。つまり保険の問題、法律的問題、経済的影響についてよく語られていたことです。
ラウダ
アメリカで第1線にある2つの大学医学部が持った初めての代替・相補医学に関する学会なので、大きな意義があったと思います。これまでの代替・相補医療に関する学会では「代替・相補医療とは何か」という基本的なことを説明するというものが多かったのですが、「どのように代替・相補医療を利用すれば患者のために役立つか」というアプローチがなされた1歩進んだ学会であり、私もたいへん驚きました。いろいろな保険会社の人たちも参加しており、これも初めてのことと思います。 
企業の参加も多くありましたが、その中で印象に残ったのは、自動車メーカーのフォードの発表です。フォードでは労災申請が常に2000人以上いるということですが、その中身はほとんど腰痛とストレスとされています。これらは西洋医学では治療が難しく、本当に障害が起こっているのかどうか査定することも難しいのですが、実際にお金がかかるという疾病です。そこで、こうした労災に代替・相補医療を組み入れることにより、医療費の全体が下がるだろうということで、企業や保険会社はたいへん期待しているわけです。
後藤
学会では医師や医療関係者が400人も参加していましたが、これからの時代はさまざまな患者さんの医療ニーズがあるなかで、これに対して医療人がどう責任をとっていくかということが議論されていました。自分一人ですべての責任をとるわけにはいかないから、どのようにチームワークを作っていくかとか、リーダーをどう作っていくかといった話し合いがなされていました。
以前のアメリカの医師は代替・相補医療を利用する人を馬鹿にする傾向があったといわれます。しかし、現在は高学歴、高収入で、科学に限界があるのだということをちゃんと知っている人たちがこれに取り組んでいることが理解されるようになりました。医療人は患者さんの求めるものについて、責任をもって積極的に勉強しなければならなくなったわけです。ですから、患者志向の発想をするチームワークといったものが、これからアメリカで構築されていくということを感じさせられました。
日本にも、代替・相補医療がすごいのだということだけではなく、ぜひそうした流れが輸入されるといいなと思います。
ラウダ
私自身が後藤園長に導かれる形でこの世界に入り込み、現在は学生に教える立場になっているのですが、今度はその学生たちがさらに教える立場になるわけです。ですから、最初に誰かが始めるということが重要であるということを実感しています。
地図を見ながら国際化、学際化を話し合う。
後藤
看護とリハビリの分野ではアメリカから学ぶべきことはたくさんあります。今後ますますロングビーチ校との交流を深めていかなければならないと思いますが、これからの後藤学園の取り組みについて何か先生のご提案を聞かせてください。
ラウダ
最初の頃は「日本に行って鍼治療を受けた」というだけで変人扱いされましたが、いまや自分の部下に堂々とそれを薦めたりすることができる時代です。 十数年のうちにそれだけ変わってきています。日米では言葉の壁がありますが、たとえ通訳を使ったとしても、今後もさらに多くの学生や教師の交換を進めて いっていただきたい。また、インターネットを使っての情報交換もおおいに促進していただきたいと思います。
後藤
今アメリカで起こってきている医療の世界の変化は、じつは日本でも専門家が気づかないうちに、一般の人たちが選びとってきたことだったのではないでしょうか。このように消費者を中心とするものの考え方を定着させる上でも、日米の学生が一緒に勉強することはとても意義あることだと思います。さらに新しく中国からも先生や学生が訪れるようになり、これもずいぶん大きな影響を与えるようになってきました。今後いっそう充実した東洋医学の共同研究も進めたいと思います。本日はありがとうございました。

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