「健康とは何か」を考える - 5

【特集コラム】
医療・福祉分野におけるヒューマン・インターフェイス研究会

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酒谷 薫 (日本大学医学部脳神経外科教授)

一時もてはやされた健康法がすたれると、すぐまた別のものが流行りだすというように、種々雑多な健康法が盛衰を繰り広げています。しかも、そのほとんどは しっかりした科学的な裏づけがあるわけではありません。だから、あやしげな健康法に飛びついて被害に遭う人が絶えないのです。
治療から予防へと医 療の重点がシフトしていくなかで、医療者の間でも健康の維持増進について関心が高まっています。ところが、病気の原因や治療に関する研究には膨大な蓄積が あるのに、健康を維持して病気を予防するにはどうすればいいかといった研究は、まだまだ少ないのが現状です。
悪質な健康商法による被害を減らし、 長期にわたって安全に活用できる健康法を普及させることも、医療者の重要な役目であると考えます。そのためには、科学的な裏づけをとることが欠かせませ ん。そうした研究を行うことを目的に、私たちは昨年、医療・福祉分野におけるヒューマン・インターフェイス研究会を発足させました。
健康を扱う際 には、病気とは違ったアプローチが必要となってきます。病気には原因があって、現代の西洋医学では、それを突き止めるために要素へと分解し、悪いところを 改善したり取り除いたりすることで治療を行います。ところが健康というのは、心身のいろんな要素や条件が組み合わさってバランスのとれた状態です。原因と なるポイントがあって、そこを操作すれば健康になるというものではありません。
健康について考えるときには、中医学の思想が有効でしょう。中医学 の身体観は、西洋医学のように要素還元的なものではなく、臓器と臓器の相互作用に目を向け、周囲の環境との関係も重視します。こうした、いわば全体調和的 な身体観が根底にないと、健康というものはとらえられないと思うのです。もちろん、医療分野以外の専門家の協力も必要となってきます。だから研究会のメン バーはじつに多彩で、西洋医学の臨床医はもちろん、中医学からは鍼灸師が参加し、生理学者や工学者もいます。
こうした学際的な研究会の方向性は、 統合医療にも通じるものです。ただ強調しておきたいのは、私たちの考える統合医療の主体はあくまで人間だということです。分析して要素に還元していくこと は機械にもできますが、それを統合していくことは人間にしかできないからです。さらに、その人間を統合しているものは何かと問えば、それは脳です。脳が健 全に機能することで、心身のバランスが保たれ、通常の社会生活を送ることができます。この点において、私のような脳科学者が研究会の中核メンバーとして関 わる意義があるのです。もちろん、ここでいう脳科学とは、従来のような脳を身体から切り離して分析しようというものではなく、環境や身体との調和の中でと らえようとする、中医学の思想を取り入れたものです。
研究会として最初に取り組むテーマの一つとして、ME(医療機器)をベースにした健康増進の 研究を掲げています。たとえばMRIのような診断機器は、病気の発見や治療に威力を発揮してきましたが、今後それが健康増進にどう結びつくのかという点で は未知数です。一方、商業ベースでいろんなリラクゼーション機器が発売されています。その中には将来、長期にわたって効果が期待できるものもあるかもしれ ません。
まだ研究会はスタートしたばかりです。いまはメンバーを増員しつつ、それぞれの考えを出し合いながら試行錯誤をしていく段階です。でも近い将来、より多くの人に役立つ研究成果を提示できるよう、さまざまな研究テーマに取り組んでいかなければならないと思っています。


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