肥満とダイエットを考える - 2

小児の肥満・やせは、
成人後の健康問題に結びつきやすい

小児の肥満・やせの追跡を研究テーマの一つとしている南里清一郎慶大教授は、小学一年で肥満度の高い子は大学生まで肥満が持続しやすいことを明らかにした。早めに正しいウェイトコントロールを始めることを呼び掛けている。一方、女児には「異常なやせ」が多く見られるようになっており、とりわけ肥満に比べ予後が悪くなりがちなので、今後の対策が求められるという。

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南里清一郎(なんり・せいいちろう) 慶應義塾大学教授・保健管理センター副所長
1971年慶應義塾大学医学部卒業。七五年同助手(小児科)、82年慶應義塾大学保健管理センター専任講師、92年同学助教授、95年同副所長、96年同教授。
著書に『小児の肥満』(医学書院.1997)など。

思春期までの肥満の解消が大切

私はもともと小児の肥満の問題を専門にしてきたのですが、最近の慶應の小中学校の様子をみると、男の子は肥満、女の子はやせということが問題になっています。 
慶應は小学校から中学、高校、大学へと個人のデータを追跡できる環境にあるため、肥満の子がその後どうなるかを調査しています。その結果、中学1年生で肥満なら三分の二が大学まで肥満が続くことがわかりました。

小児期から肥満が持続している人は将来生活習慣病を発症しやすいというデータがあります。
しかし、残りの3分の1は、医療介入や教育介入などにより、大学までに肥満を解消しています。また、慶應の中学校から入学してくる子は、受験勉強のために 肥満になっているケースが目立ちますが、中学校ではほとんどの子がスポーツを行うために二年生までには軽快することが多いようです。

このように思春期、特に男の子は身長が伸びるので、運動をしっかり行い、ある程度食事に注意し、体重を増やさなければ肥満は解消していきます。この段階で肥満を治しておくことが、将来の健康づくりに結びつくわけです。

調査の概要

1983~87年度に中学に入学し、小学1年生から高校3年生までの身長と体重が継続して判明した中学1年生の男子肥満者40名を対象として追跡調査した。
1980年度の文部省全国調査から標準体重を求め、肥満度を算出、肥満度20%以上を肥満としている。

中1男子肥満者は、その65%は大学生まで肥満が持続し、また中1肥満者の42.5%は小1から肥満であり、小学校での肥満度が高ければ高いほど、また発症年齢が低ければ低いほど、大学まで肥満が持続する。

中1男子肥満者は、高コレステロール血症、低HDL―コレステロール血症、高尿酸血症傾向を示し、動脈硬化の芽生えが認められた。高3まで肥満の持続する子はこの傾向が続いたが、高3非肥満群ではすべて正常化していた。

日本肥満学会の提言では、 標準体重=身長(m)×身長(m)×22 となる。
また、日本肥満学会により、上述の標準体重算出式に基づき、肥満度の算出方を次のように定めた。
肥満度(%)=(実測体重-標準体重)÷標準体重×100

予後不良が目立つ摂食障害

慶應の小中学校の女の子たちに関していえば、もう20年くらい前からやせの傾向が目立つようになっています。中学校では「太るのが恐い」という子が80%くらいにもなり、何らかの形で体重を減らそうとした子が半分くらいもいるのです。 

調査したところ、お母さんの影響がやや見られます。
お母さん自身が何らかの形でやせるためのダイエットに興味があり、やせている人が多いようです。
もちろん女性週刊誌やテレビの影響も少なくありません。今のアイドルたちは誰もがやせすぎているのに、女の子たちはそれに憧れてしまうというところがある のでしょう。肥満予防という観点で「体重が増えるのはいけない」ということをある意味で言い過ぎたのではないでしょうか。

私は医師になったばかりの30年くらい前に、初めて拒食症の子と出合いました。当時は非常に珍しい病気でしたが、ここ10年くらいの間に、各学校では毎年 1人か2人は必ずいるというほどになっています。さらにかなりの予備群がいて、年間20%くらいは拒食と隣り合わせという状況です。最近は、男の子にも拒 食症を心配しなければならないケースが出てきました。

中学生くらいで拒食症などの本格的な摂食障害になった場合、なかなか将来の予後はよくないことが多いようです。早めに対応しても本当によくなるのはよくて 3人に2人、悪くみると3人に1人くらいしかありません。その後何十年も苦しみ続け、精神疾患につながったり、場合によっては命を落とす場合もあります。

調査の概要

ドラッグストアーにはさまざまなダイエット商品が並ぶ1999年、中学3年生の女子76名を対象に調査した。全国調査から導き出した標準体重で推移する成長曲線を設け、これと照らしている。その結果、39名をやせ群とした。
ある時期から身長に比し、体重が成長曲線に見合ったやせ方をしている「正常やせ群」は12名(15.8%)、成長曲線を異常に下回っている「異常やせ群」は19名(25%)、両者の境界にある「境界やせ群」は8名(10.5%)だった。
また、異常やせ群のうち神経性食欲不振症と診断される者は3名(3.9%)で、残り16名は神経性食欲不振症予備群と推測された。

ご飯をしっかりと

電車内の女性誌の吊広告もダイエットをうたう

機能に障害が生じます。さらに骨粗鬆症などの障害が早めに現れるということにもなりかねません。
私たちが小学生を対象に行った食生活調査の結果、糖質が栄養所要量を下回っていることがわかりました。また、摂取エネルギーに占める脂肪の割合が高すぎるようです。

もっ と糖質を確保しなければならないのですが、間違いやすいのは「糖質は太るからご飯はいや」という考え方です。ご飯などに含まれるでんぷんの糖質と砂糖 やブドウ糖の糖質は違っており、前者は複合糖質といって太りにくく、後者は単純糖質といって肥満に結びつきやすいのです。ですから、摂取エネルギーを確保 するために、脂肪は控え目にする一方、ご飯はしっかりとったほうがいいわけです。カルシウムや鉄分も不足しがちでした。

私たちは肥満・やせすぎの子どもや保護者に対して、「正しいウェイトコントロール」という考え方からこうした食事指導を行います。程度の重い肥満の子など は、直接面接して最近の食事内容を聞き、それを栄養士さんに分析してもらってその結果からアドバイスします。また、摂食障害の子には、小児科の精神保健を 専門とする医師やカウンセラーと相談しながら精神科的なアプローチも行っています。

調査の概要

1999年、小学生の3日間メニュー分析による食事調査を行い、栄養所要量と比較した。
その結果、エネルギー、脂質、たんぱく質摂取量は、栄養所要量を上回り、糖質摂取量は下回っていた。カルシウムは小4女子で栄養所要量を下回り、鉄摂取量はすべての学年で下回っていた。脂肪エネルギー比は、30%を上回っている。
以上から、穀類、魚介類、豆類、乳類の摂取量を増やし、肉類、とくに赤肉の摂取量を減らす必要があることが示唆された。


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