現代人の大敵「睡眠障害」

現代人の多くは睡眠不足に陥りがちだ。
睡眠時問の短さを自慢するような妙な風潮もある。
だが、不規則な睡眠やストレスは睡眠障害を誘発する。
睡眠をもっと大事にしたいものだ。

吉村克己 (ルポライター)

日本人の二割が寝不足

全米睡眠財団が2002年に実施した『アメリカ睡眠調査』(2002 Sleep in America poll)によれば、全米成人の4分の1に近い約4700万人が質量ともに十分睡眠をとっていないことが分かった。また回答者の37%は日中に行動の障害になるほど眠いことが1ケ月のうちに少なくとも数日はあると答えた。
日本でも同じく2002年に日本睡眠学会が発表したアンケート調査によれば、「全体的に見てよく眠れていない」という回答者が20%いた。
また「セルフメディケーションによる睡眠改善を考える会」が2003年末に実施した『サラリーマンのウイークリーライフスタイルと不眠実態調査』によれば、なんとサラリーマンの50%近くが「寝つけない・眠りが浅い」などの「不眠」を抱えているという結果が出た。
まさに睡眠に対する悩みは先進国の「現代病」だ。
熊本大学発生医学研究センターの粂和彦助教授は睦眠障害に悩む人が増加する中で、「睡眠全般に関する正しい知識の普及が遅れている」と感じ、2001年に「睡眠障害相談室」というサイトを開設した。
同サイトは睡眠や睡眠障害に関する基礎知識から、メールによる睡眠障害の相談にも応じている。
粂助教授は睡眠に関する基礎研究を行っているが、2002年までアメリカで研究活動をし、「日本の睡眠医学の地位がまだまだ低いと感じた」という。
電子メールによる相談はのべ2200人に達し、いまや2ケ月の返事待ちになるほど反響が大きい。
粂助教授はこのうち1000件の相談を分析したところ、男女比は44対56、年齢は平均31歳となった。
相談内容でいちばん多かったのは、意外なことに「日中の眠気、朝起きることができないなどの過眠症状」24%、続いて「不眠症状」23%、「睡眠中の異常」17%などとなった。
過眠症状が多かった理由として「不眠を扱うサイトは多いが、それ以外の睡眠障害は少ないからだろう」と粂助教授は語る。

過眠症と不眠症

この過眠症の代表的な病気が「ナルコレプシー」だ。居眠り病ともいわれるほど日中猛烈な眠気に襲われる。日本人のナルコレプシー有病率は1万人に16~18人といわれており、とくに10代に発症のピークがある。
居眠りだけでなく喜怒哀楽の感情が動いたときに全身の力が抜ける症状もあり、これらの症状が何ヶ月も続けばナルコレプシーの疑いがある。
この病気は専門医が少ないため、本人や周囲が病気と認識せず、怠けや夜更かしのせいと勘違いされやすい。社会人で発症すれば職場の無理解から転職や退職を余儀なくされることもある。
このため患者同士の交流および、社会的啓蒙、早期発見・治療などを促進する、「なるこ会」という患者同士の団体もある。なるこ会のサイトにはナルコレプシーの基本的な情報や専門病院のリストがある。
また、不眠症の一種で'広く一般にはまだ知られていないために、患者を苦痛に陥れているのが「むずむず脚症候群(RLS=レストレス・レッグス・シンドローム)」である。
この病気はレストレス・レッグスというように、すわっている時や横たわった時、脚(ときには腕にも)に抑えがたい不快感(むずむずや痛み、かゆみなど)が押し寄せ'脚を動かさずにはいられない症状が起きる。
その不快感は「脚の内部を蟻がはいずり回る感覚」という耐えがたいものだ。
RLSは同時に両足のけいれん(ときには激しい足蹴りの症状も起きる)もともない、患者は重度の不眠症に悩まされる。この病気の原因はいまだに分かっていない。

RLSの苦しみ

大阪府在住の良永信男さん(66歳)は59歳のときにRLSを発症した。
当初は単なる不眠症と思い、内科の医師を転々としたが、どこも睡眠薬を処方するだけで症状は悪化した。ついには一晩中寝ることができなくなり、良永さんは両脚を切り落としたいと思うほど苦しんだ。
通勤途中の電車や仕事中に眠ることが頻繁となり、ついには居眠り運転で追突事故を起こした。このままでは本当に死んでしまうと思い、良永さんは自分で睡眠障害の専門書を漁り、ついに専門医師を見つけ出して、RLSと判明した。
「初めてこの病名を知り、インターネットで調べた結果、アメリカには詳しく貴重な情報が豊富にあることがわかり、感動しました。そこで日本でも私の知る範囲のことを皆さんにお知らせしたいと思い、ホームページを開設しました」
2002年に良永さんが開設したサイトにはRLSに関する治療法や専門医・病院の情報などが豊富にある。同じRLSに悩んでいた多-の患者から感謝のメールも寄せられた。
「想像もしていなかったのですが、メールをいただいたすべての方から感謝のお言葉をもらいました。さらには積極的にご協力していただけるアメリカを含む睡眠障害専門の先生方もおられ、大変心強く、ありがた-思っています」と良永さん。
全国紙に良永さんのサイトが紹介されるなど、RLSという病気の存在も徐々に知られるようになった。
「自分の身体や病気については、自分でできるだけ詳しく理解する。そして、お医者さんに任せるだけでなく、自分自身で治していくという積極的な姿勢で取り組んでいくことが大事だと思います」と良永さんは語っている。

睡眠は文化だ

一概に睡眠障害といっても様々な原因がある。安易に自己診断せず、まずは専門医を訪ねることが必要だろう。
神戸市に事務局を置く「スイミンネット」というサイトでは、不眠治療の相談を受け付けている全国の医療機関を地域別に検索することができる。
スイミンネット事務局は「睡眠・不眠の一般的な知識、睡眠薬の情報ページを中心に当サイトをご利用いただけているようです」と語る。
このように現代人と睡眠の問題は不可分だが、睡眠を生理的な現象とだけとらえず、時代や環境など文化の面からユニークなアプローチを行っている組織がある。「睡眠文化研究所」だ。
同研究所では睡眠に関する基礎的研究や共同研究、フォーラム開催などの活動を行っており、物質的な豊かさを追い求める「覚醒の文化」一辺例ではなく、「眠りの文化」にも視野を広げるように提言している。
同研究所では『都市生活における家族の睡眠の現状』(2003年)という興味深いレポートを発表しているが、その中で、子供の眠りは母親次第であることを論証している。
首都圏400家族を調査した結果、八割が親子同室で眠っており、子供の就寝時刻は母親の影響が強いことが分かった。そして、両親の「睡眠健康」(良好な睡眠状態)と子供の睡眠健康が相関関係にあることも明らかになった。また、子供の36%が睡眠不足と答えており、事態は深刻である。
子供の健全な成長にとって十分な睡眠は必要不可欠であり、両親の生活形態に合わせて、子供を深夜まで寝かせないような振る舞いは無責任きわまりないといえよう。眠りは文化であると考える心の豊かさが身体の健康の土台となるのではないだろうか。

睡眠障害相談室
なるこ
むずむず脚症候群
 
スイミンネット
睡眠文化研究所
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