日本人の栄養状態は豊かになったのか

食材の栄養成分を表示した「日本食品標準成分表」が18年ぶりに改訂された。
新改訂版では、収載食品数が261増えるなど日本人の食生活の変化に対応した細かい分類になっているが、はたして日本人の栄養状況はどうなっているのか調べてみた。

吉村克己 (ルポライター)

豊富な食べ物で栄養不足

昨年11月、旧科学技術庁の諮問機関である資源調査会は「日本食品標準成分表」の全面改訂を行い、五訂版を公表した。旧四訂版は82年の発表だから、18年間には日本人の食生活も大きく変化したはずである。

なぜ、これほど放っておいたのだろうかと、現文部科学省の報道資料から「五訂日本食品標準成分表の概要」を早速見てみた。すると、さすがに四訂以降も微量栄養素やビタミン、食物繊維などの項目は追加されており、九四年以来、全面改定に取り組んできたことがわかった。
五訂版と四訂版の違いは、収載食品を261品目、成分項目も36項目増やすなど、よりきめ細かくなったことである。とくに輸入品や冷凍食品、養殖ものの増加に対応して、それらを新たな品目として追加している。

我々はずいぶんいろいろな種類の食べ物を摂るようになったのだなと思う。
だが、北海道芦別市で病院栄養士を務める吉田芳真子さんは、現実は逆になっていると嘆く。
「いつでもどこでも食べたいものが手軽に手に入る時代なのに、摂取する食品数が不足し、カルシウムや鉄などのミネラルや食物繊維が不足しているのが現状です」
吉田さんは15年にわたる豊富な栄養士経験から、最近の食生活の偏りによる影響をこう指摘する。

「肉類の脂肪の摂取が増え、野菜類・海草類・芋類・豆類・キノコ類の摂取が不足しています。加えて朝食の欠食や遅い夕食と夕食時に偏るエネルギー摂取な ど、不規則な食習慣によって、30歳以降の年代では生活習慣病の原因となり、肥満・糖尿病・高脂血症・高血圧・痛風・貧血・骨粗鬆症などの疾病が増えてい ます。また子どもも不規則な食生活によって生活習慣病が増えており、肥満・糖尿病・高脂血症などの若年化は大きな問題です」
もともと、日本食品標準成分表は国民の栄養改善のため、50年に当時の政府経済安定本部がとりまとめたのが始まり。以来、学校給食や栄養指導で活用され、教育・研究・行政の基礎データとしても利用される重要な食品成分の基準値である。

今回の改訂を機に、子どもにとって本当に必要な栄養素の摂取や食生活について、親たちが真剣に考えるようになってほしいのだが、レトルト食品やコンビニの惣菜を平気で食卓に載せ、「1日30品目達成!!
吉田さんは、かつて栄養関連情報のホームページが少なく、栄養に関する情報がマスコミによって混乱してしまっていることから、「NUTRITION」というホームページを自ら開設しているが、ここには栄養に関する詳細で豊富な情報が満載されている。
同サイトの「食事と健康」というメニューから入ると、すぐに「健康と栄養」という初心者向けの前書きがある。ここをぜひ、ご覧いただきたい。栄養素とは何 かという基礎から、単なる摂取品目数ではなくバランスよく組み合わせることの重要性を指摘している。とくに栄養成分の似たものをグループ分けして作られた 「6つの基礎食品群」は献立を考える上での基本だろう。

日本の伝統食が健康の元

81年に日本ロシュによって設立されたビタミン広報センターも健康と栄養についての正しい知識を消費者に伝えることを目的としている。
同センターのサイトにあるニュースリリースには日本食品標準成分表の改訂に関する茨城キリスト教大学の五十嵐脩教授の解説が掲載されている。
五十嵐教授によれば、新たに成分項目として追加された葉酸は先天異常の子を出産する危険性を減らす効果や、動脈硬化の抑制効果が証明されつつあるという。

葉酸は生ウニ、えだまめ、モロヘイヤ、アスパラガスなどの野菜・豆類に多く含まれているが、野菜や食物繊維の摂取は年々減っているようだ。
国立健康・栄養研究所のサイトを見ると、健康や栄養に関する豊富な調査研究資料が掲載されている。同研究所は厚生労働省が毎年実施している国民栄養調査や、日本人の栄養所要量の策定にかかわっている。

栄養所要量とは、日本人が健康を維持するために標準となるエネルギーや各栄養素の摂取量を示すものだ。じつは、2000年4月からこの栄養所要量の第六次 改定が実施され、このことが成分表改訂の背景にもなっている。同研究所サイトの「健康栄養科学知識基盤倉庫」というコーナーはまさに知識の倉庫。この中の 「世界の栄養所要量」をクリックすると、海外各国の栄養所要量と共に、「健康と栄養 (栄養所要量)」という項目がある。

ここには、健康や若さを保つためのさまざまな食生活の知恵が分かりやすく解説されているが、なかでも「若さを保つための食事・野菜と成人病予防・」を見る と、日本人の食生活で野菜が不足していることが指摘されている。野菜、豆類、穀類に多く含まれる食物繊維の摂取量は30年間で21%も減少し、これが糖尿 病、高血圧、がん、心臓病などの成人病を増加させる一因となっている。
このほか、健康と栄養のコーナーには、日本人の栄養摂取量の状況(これからの日本人の食生活)や、「若さを保つための食生活の知恵」「老年期の健康と食生 活」など情報が満載だ。若さを保つためには、魚、卵、豆腐、納豆など、良質のタンパク質と、緑黄野菜、果物、海藻類を毎日摂取することが大切だとある。要 するに伝統的な日本食が健康の秘訣のようだ。

アメリカの食生活ガイド

ところで、同研究所は国民栄養調査に協力していると先に述べたが、成人健康・栄養部の田中平三部長が研究概要の解説で興味深いことを述べている。その一部を引用する。

「我が国の食品成分表は、食糧志向型で生材料の栄養素価が記載されている。欧米諸国では、生材料のみならず料理、調理食品、加工食品等を含めた2万個に近い食品についての成分表が整備されつつある」

田中部長はこうしたデータベースづくりが今後の課題と述べている。そこでアメリカの状況を調べてみると農務省傘下のThe Food and Nutrition Information Center(FNIC)という組織が見つかった。
そこには昨年策定された「アメリカ人のための食事ガイドライン」があるが、その中で、「グレイン(穀類)を毎日食べよう、とくにホールグレインを」とあるのは面白い。ホールグレインとは全粒粉や玄米などの胚芽を含んだ穀物のこと。パン食よりご飯食をアメリカ人が勧めているのだから見習いたいものだ。

このガイドラインに沿って作られた「フードガイド・ピラミッド」という具体的な食生活のアドバイス表が分かりやすい。毎日食べるものをピラミッドの底辺に、控えるべきものを頂上に置いた図になっており、日本でも同じようなものを作ってはどうだろうか。

五訂日本食品標準成分表の概要(文部科学省)


NUTRITION(吉田さんのホームページ)
ビタミン広報センター
 
国立健康・栄養研究所
Food & Nutrition Information Center

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