電磁波と健康の関係は?

パソコン、携帯電話、家電機器、アンテナなど私たちの身の回りには電磁波を発する多くの機器がある。
電磁波とがんの関連を示唆するような報告もあり、電磁波を巡る健康問題がクローズアップされている。

吉村克己 (ルポライター)

携帯電話で脳に熱


携帯電話の電磁波が脳や身体に悪い影響を与えるというのはよく聞く話である。だが、可能性を示唆する報告や否定する議論がない交ぜになり、何が本当なのかよく分からない。
そこで、携帯電話事業者のサイトをまず覗いてみた。すると各社とも、携帯電話機の比吸収率(SAR)という基準値を示し、世界保健機関(WHO)と協力関係にある国際非電離放射線防護委員(ICNIRP)が提示したガイドラインにしたがって、旧郵政省が定めた「電波防護指針」の指針値内におさまっているから大丈夫との説明だった。
人の身体が電磁波にさらされると、皮膚から吸収され組織内で熱が発生する。SARは一定の質量の組織に一定の時間で吸収されるエネルギー量(W/kg)を示している。つまり、携帯電話を耳に当てていると、脳の内部に熱が発生するというわけだ。
総務省のサイトには「電波環境の保護」と題して、電波防護指針や委員会報告資料などが集められている。「電波防護のための基準(電波防護指針)の策定」というコーナーには1990年に策定された指針と1997年に改訂された指針が掲載されている。確かに平成九年改訂版ではICNIRPの報告を受けて、「局所SAR」の指針を追加したと書かれていた。頭部局所に対するSARの上限値は2W/kgである。
携帯電話機ではこのSARを必ず測定する必要がある。一部の端末を確認しただけでも0.7~1.6と端末によってかなりバラツキがあるようだ。

観測できない作用


WHOのレポートでは携帯電話の電磁波ががんを誘発したり促進したという報告はないが、97年に行われた研究ではネズミのリンパ腫発症の確率を押し上げたというデータがある。
だが人体に対する電磁波の作用を厳密に調べることは簡単ではない。前述した電波防護指針も含めて、現在のガイドラインは主に電磁波による熱作用と電流刺激などの刺激作用に限定して定められている。
というのもこの2つの作用は定量的に測定できるからだ。だが、これら以外の作用に関しては今のところ黙殺されている。「観測できないものは存在しない」と決めつけているわけではないだろうが、電磁波の人体に対する影響の問題を複雑にしている原因こそ、この「観測できない作用」にある。
九六年に結成された電磁波問題市民研究会(当初はガウス・アクション)のサイトには読者からの投稿コーナーがあり、「電磁波の影響で体調を崩している」と訴える人々の声が多数、寄せられている。
「携帯電話を使うと頭痛が起きる」
「送電線の横に住み始めてから倦怠感や微熱が続く」
「携帯電話の基地局が設置されてから不眠症になった」
こうした症状は「電磁波過敏症」と通称されている。医学的に認知された病気ではないが、体調不良を訴える人がいるという事実は消えない。
同研究会代表の野村修身さんは「危険性が確立する前であっても、予防するのが当たり前という社会通念を確立したい。電磁波の被害が顕著になってからでは遅いのです」と語る。
設立当初は数十名だった会員がいまでは350名にも増えており、電磁波に対する問題意識が市民の間で急速に高まっているのは確かのようだ。

冷静な科学的議論を


問題意識を持つことは大切だが、一方で闇雲に怖がる必要もない。
「BEMSJの『電磁波(電磁界)の健康影響』講座」というサイトを運営している三浦正悦さんは「論議すべき電磁波の範囲をきちんと定義してから論議する必要があります」という。
電磁波といっても波長によってさまざまな種類があり、三浦さんはこれらを区別して議論し、健康への影響についても「冷静に、公正な立場で、幅広く、科学に基づいた情報や最新の研究状況などを知るべきだ」と警鐘を鳴らす。
三浦さんのサイトには電磁波や健康への影響に対する基礎知識や内外の研究レポートが豊富に掲載されている。三浦さん自身、もとはエンジニアだったが、現在、電磁波の生体影響のコンサルタントとして講演や執筆活動を行っており、世界で唯一の電磁波の生体影響を論議する専門学術学会Bio Electromagnetics Society(BEMS)の会員でもある。サイト名もBEMSの日本支部(J)という意味だ。
サイトを開いた動機も「電磁波の健康への影響に関して不安を感じている方が多い割にはきちんとした科学の目で見た関連情報が少ないと感じたからだ」という。
三浦さんはサイトの中で、「そばアレルギーを持つ人がいるから、そばは危険な食物であると断定してよいか」と問いかけ、「電磁波以外にもっともっと緊急的に解決しなければならない危険因子が多い」と冷静な議論を呼びかけている。

まずは自己防衛から


東北職業能力開発大学校附属青森職業能力開発短期大学校の佐藤秀隆教授も「電磁波は使い方により影響が出る場合と影響が少ない場合がある」と語る。
佐藤研究室のサイトから「電磁波と健康」というコーナーを見ると、関連情報や佐藤教授の考え方が簡潔に記載されている。その論旨は「人体に影響があるのかどうかはっきり分からない状況では、電磁波に対する自己防衛をしておいた方がいい」ということだ。
たとえば携帯電話はアンテナを全部引き出して使用するとか、赤ちゃんをおんぶしながら電話しないなど、すぐ誰にでもやれることばかりである。
佐藤教授はアマチュア無線のファンで、長年、無線を扱ってきた経験と専門知識がある上で、こうした判断をしているという。
確かに携帯電話など無線機器は使い方に気をつければいいが、送電線や移動体通信の基地・アンテナについてはどうだろうか。
これは携帯電話の電磁波とは違った議論が必要だ。高圧送電線からは超低周波電磁界が発生しており、世界では特に小児白血病の発生との関連性を探る研究が行われている。
東北電力のサイトの「電磁界」というコーナーには電磁界とは何か、から健康影響への調査資料まで掲載されている。同社としては「電力設備から生じる電磁界は、人の健康に有害な影響を与えることはない」と結論づけている。
だが、電磁波問題市民研究会のサイトには送電線による被害を訴えるケースもあり、多くの人々が不安を抱いているのも事実だ。東北電力はこうした情報を載せているが、東京電力のサイトではまったく触れられていない。少なくとも企業としての公式見解ぐらいは載せるべきではないか。
WHO傘下の国際がん研究機関(IARC)は、2001年に超低周波電磁界は「ヒトに対して発がん性がある可能性がある」と発表した。だが、この可能性のレベルはかなり低いもので、コーヒーやガソリンエンジンの排ガスと同等だ。
今後、どのような新しい研究結果が出るか分からないが、我々としてはコーヒーや排ガスと同程度には電磁波・電磁界のリスクを考えるべきなのだろう。

電波利用ホームページ
電磁波問題市民研究会
BEAMSJ
 
佐藤研究室

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