結核緊急事態宣言を考える - 2

多剤耐性結核の予防は
きちんと治療薬を服用することがポイント

結核最前線臨床医が伝える結核の予防・診断・治療法を
杉田博宣複十字病院副院長に聞く
結核予防会附属複十字病院は結核入院病床を100床持ち、
年間93%の稼動率となっている。
また、普段は1日平均100人の外来は、
7月の結核緊急事態宣言以降、倍増したという。

杉田博宣 (すぎた・ひろのぶ)
1966年、信州大医学部卒。米国陸軍病院にて卒業研修後、大協石油船医、ジャマンタウン病院(米フィラデルフィア州)にてインターン、セイントラファエル病院(米コネティカット州)呼吸器内科レジデントを経て、七四年より結核予防会勤務。現在同複十字病副院長

結核核の予防

密閉された場所で感染しやすい

結核は結核菌によって起こる感染症です。空気感染なので予防は非常に難しいといえます。 
患者さんが咳をごほんごほんとやると結核菌は、しぶきで飛び散り、水分が蒸発すると結核菌だけとなって浮遊するのです。これを「飛沫核」といい、吸い込むと感染するわけです。患者さんの側からいえば、普通のマスクをし、咳をしたときなど手で口元を抑えていただくだけで結核菌の飛散はかなり抑えられます。 
結核は家庭内感染が多く、結局、同じ場所に一緒にいる時間帯が長いほど感染しやすいといえます。お年寄りが非常に重症になりやく、そのお年寄りから若者にうつって、さらに若者同士でうつし合っているというケースが多く見られるようです。若者同士でうつし合う危険性は、サウナとかパチンコ、カラオケルオームのように密閉されて空気が澱むような場所にいれば高くなります。ただし、今の時代、そうした場所を避けるというのもなかなか難しいことです。

一般の若者が発病したとき、その人がうんと不摂生をしたことが原因であるかのように言いがちです。しかし、日本のビジネスマンの多くは、猛烈に働いていて睡眠時間も短いようです。ただそうしたライフスタイルが結核になりやすいことと関係があるのかどうか科学的な根拠はありません。 
結核菌はじつにずぶとい生物で、とくに人体の三六~三七度という体温、タンパク質がたくさんあるという環境は、発育するのに絶好の環境なのです。高温や紫外線には弱いのですが、身体の中に入ってしまったような場合、甲羅干しなどで直射日光をたくさん浴びるとかえって悪化したりします。さらに乾燥にもわりと強く、湿気にも強いし酸にも強い。じつにタフです。

感染しても発病を抑える「予防内服」

結核菌が身体の中に入ると、当然それは「異物」なのでその情報をTリンパ球というものがキャッチし、それを貪食細胞(マクロファージ)に連絡して、それが結核菌を食べます。身体に抵抗力があれば発病しないで結核菌を身体の中に持っているわけで、これを「感染」といいます。
ところが、体力が何らかの原因で落ちてくると、それまで身体の中にいた結核菌が暴れ出して「発病」するるわけです。体力が弱る条件としては、一般にはまず老化があげられます。
また、いちばんリスクの大きい人はHIVの感染者で、結核菌の感染も受けやすいし発病もしやすくなってしまいます。結核の感染者はHIVに感染すると、一生の内に30%は結核を発病するといわれています。その他には次のような人たちが結核にかかりやすい状況にあります。

・胃の切除手術を受けた人
・栄養状態の悪い人
・糖尿病の人(三倍くらい発病しやすいといわれる)
・飲酒で肝臓の悪い人
・透析を受けている患者
・炭鉱などで働き塵肺の人
・リウマチなどでステロイド剤を多量に長期間使っている人
・抗がん剤治療を受けている人

結核に感染したら「予防内服」といって、薬で発病しないように抑えることができます。ヒドラジドという薬をきちんと服用すれば9割くらいまでは予防できるだろうともいわれます。普通はそれほどきちんと飲めるわけではないので、6割くらいは抑えることができると考えられているのです。

結核の診断

ツ反では「本物の感染」かどうかは不明

ツベルクリン反応は、本来、結核に感染したかどうかを診断するためのものです。ただし、ツ反の結果、陽性と判定されても、本物の結核に感染しているとは限りません。すなわち、日本の場合は陰性の人に、結核菌に対して身体に免疫(抵抗する方法)をつけるために牛の結核菌であるBCGを打っているからです。現在は3歳までに最初のツ反を行い、陰性だったらBCGをやり、その後小学1年と中学1年の時ツ反を行い、陰性ならその都度BCGを打つということになっています。本物の結核菌が入ってくればツ反はもちろん陽性になりますが、BCGを打った結果、陽性になってしまうこともあるわけですから、本物の結核感染を起こしたかどうかを知ることは非常に難しいのです。これを見分ける方法を見つけ出そうという研究が行われていますが、まだはっきりと有用なものは出来上がっていません。

本物の感染を見分けるのに有効な「ツ反二段階法」

BCGで陽性になっても、さらに本物の結核に感染するというケースもあります。それを判断する上で、「ツ反の二段階法」というものが有効と考えられます。 
たとえば私の病院のツ反をした職員などは、中学生時代とは間隔がかなり開いているために、1回目は「寝た子を覚ます」という状態で、身体は十分目覚めておらずBCGで免疫を学習したことがよく思い出せずに、陽性であってもそれを適切に判断できないことがあります。
そこでもう一度ツベルクリンを打った場合、身体は免疫を学習していたことをちゃんと思い出し、真の陽性を示すわけです。これを「ブースター効果」と呼んでいます。
このように2回目のツベルクリンを打つことで本当の反応を知ることができるわけです。発赤径がどのくらい大きくなったら感染を起こしたかを知るためのベースを作っておけば、感染を見誤ることもなくなるわけです。
私たちの病院のような結核菌にたびたび接するような職場に就職したような場合、こうしたツ反の二段階法はとくに有効だと思います。ただ、この試みは最近始まったばかりで、実施されている例はまだごくわずかなのです。

「発病」を診断する塗沫検査

結核感染=発病というわけではありません。ですから、ツ反をやって結核に罹患しているかどうかを診断することはできないのです。 
結核罹患を診断する方法としては、1つはレントゲンの写真があります。もう1つは痰をガラス板に塗って、チールニールゼンという方法で染めて顕微鏡で見る「塗沫検査」という方法です。長い間この二つが用いられてきました。

22歳の女性結核罹患者の肺X線写真結核の患者さんの愁訴は、風邪の症状と変わりません。風邪なら1週間もすれば治るし、ちょっと重くても2週間もすれば治るはずですから、それを過ぎても咳 が続いたらおかしいなと、考えてください。頭のどこかの片隅に「結核ではないか」という意識を持つことも大事です。ほとんどの結核はレントゲン写真を撮れ ば影を呈しています。しかしながら、時に他の病気との鑑別が難しく、我々専門家も「まさかこの人は結核ではないだろう」と思っていたのに、結核だったとい う例もあります。 
塗沫検査法で結核菌やそれに類した細菌がいるのを見つけるためには、痰1ccに対して菌が8000匹といった割合でいないと見つからないといわれています。
最近では遺伝子工学を利用したもっと感度のいい方法も開発されています。PCR法とかMTD法とか呼ばれる方法で、これはDNAやRNAをチェックして検査するものです。これにより、痰1ccの中に10匹もいれば結核菌がつかまえられるという感度になってきました。

結核の治療

いい加減な服用が多剤耐性菌を生み出す

結核菌の治療は、1種類の薬ではできません。重症の結核ではそれぞれ働き方の異なった4種類の薬を組み合わせた強力な化学療法で治療すると、高い治療効果が得られ、我々のデータでは2ヵ月のうちに95%は感染する力がなくなり、約6ヵ月間で完治するのが普通です。
ところが、患者さんがいい加減に薬を飲んだり勝手に止めたりすると、結核菌は薬に抵抗力を持つようになります。ヒドラジドとリファンピシンという2種類の薬が効かずに、治療が非常に難しくなるものを「多剤耐性結核」と呼びます。最後まで「治った」と勝手に判断せずに、きちんと薬を飲むことが大切です。

結核治療では数種類の薬を組み合わせて投与するこのやっかいな結核に罹っている患者は、日本では1500人から2000人と推定されていますが、年間80名くらいの頻度で増えてくる可能性があるのではないかと考えられ、国は対策を急いでいるところです。
結核の治療は昔はサナトリウムに入院して行いましたが、現在では他人に感染させる恐れがなくなれば自宅療養が可能です。我々の病院では入院期間は2ヵ月か ら3ヵ月の間で、その先は仕事にも出かけてもよいという指導をしています。しかし、まだ日本全体からみると入院期間は薬を飲み続けている間の6ヵ月から 7ヵ月としているところが大半で、早期に自宅療養という形は浸透していません。結核予防界としては、保健医療職の教育に従事しておられる方々などと協議し ながら、保健医療従事者にもっと結核に関心を持っていただけるよう努めていく考えです。


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