肝臓病を考える - 2

肝臓への無理解を告発する2つの肝炎訴訟

急増する肝がんの原因であるウイルス肝炎について、
医師や看護婦でさえも正しい知識を持っていない場合が少なくない。
ウイルス肝炎をめぐって東京と札幌で行われている2つの裁判は、
そうした社会の無理解に対する告発ともいえる。
稲積公園病院の國中るみ子看護部長に、両裁判について紹介してもらった。

プロフィール写真

國中るみ子 (くになか・るみこ)
1970年北海道大学医学部付属看護学校卒。稲積公園病院看護部長。「肝炎訴訟を支える会」事務局長。

肝炎をめぐる根強い差別と偏見

かつて肝臓病は一般に「酒の飲み過ぎでなる病気」と思われていた。「大酒飲みだったから、肝臓が悪くなるのも仕方ない」というふうに、病気が患者の生活態度からくるものと決めつけられたりしてきた。もっとも時には、「酒も飲まなかったのに何故だか肝臓をやられた」という結果になることもあったのである。今でもそのような考え方をする人が少なくない。

肝臓病には、こうした偏見や差別がつきまとってきた。
確かに酒の飲み過ぎによるアルコール性肝炎という病気はあるが、肝硬変になることはあっても肝がんは発生しない。肝臓病の大半は、肝炎ウィルスの感染によるものであることがわかってきたのである。

ところが、今度は肝炎患者へのいわれのない差別と偏見がはびこることになった。肝炎は血液が皮膚を貫いて体内に入るような状況でのみ感染し、通常の生活では感染の可能性はほとんど考えられないのに、世間は患者・家族に対して拒絶反応を示すのだ。
「入浴や食器などでもうつるのでは」という誤解が根強く残っている。97年に神奈川県立衛生短期大学の山崎京子教授らが1094人の肝炎患者に実施したアンケートでは、約1割の101人が「差別を受けた経験がある」と回答したという。

「肝臓に対する無理解からくる差別が少なくありません。まず医療関係者側の差別があって、たとえばお産で入院すると他の人と別扱いされたり、歯科医にかかろうとすると診療拒否されたりするケースは枚挙にいとまがありません。それまでは普通の診療を受けていたのに、ウイルス肝炎とわかった途端に手のひらを返したように態度が変わったりします。さらに社会では、職場で差別を受けたり、就職できない場合もある。また、家庭面ではキャリアのお婆さんが孫を抱かせてもらえないとか、籍を変えられたり、離婚を強いられるといったケースも少なくありません」

稲積公園病院の國中るみ子看護部長は、このように肝炎患者の差別の実態を紹介する。
東京都では、軽いB型肝炎ウイルスキャリアを理由に就職が内定していた青年が採用を拒否され、会社や産業医を相手に訴訟を起こしている。原告を支援する日本肝臓病患者団体協議会患者団体は「行政や医療関係者は肝炎の正しい知識の普及をもっと図ってほしい」と訴えている。

若い世代に肝炎ウイルス感染者は少ない

1989年6月30日、札幌でB型肝炎ウイルスのキャリアの5人が、「感染したのは、乳幼児期の集団予防接種の際、針も注射筒も換えないで連続注射されたためである」として、国に総額5,700万円の損害賠償を求めて提訴した。ウイルス肝炎の感染で国の責任を問う全国で唯一の訴訟である。
「実際に注射したのは個々の医師ですが、国の責任は大きい。国民の健康を守るべき予防接種行政であるのに、ずさんに行われた結果かえって肝炎ウイルスを広げることになったからです。裁判は原告の個別損害賠償請求の民事訴訟にはなっているけれど、目的は全国の患者の救済保障をどうかち取るかということでした」

「肝炎訴訟を支える会」の事務局長でもある國中るみ子さんは、裁判についてこのように説明する。ところが、昨年3月28日の札幌地方裁判所で示された一審判決は、「原告らの請求をいずれも棄却する」というものだった。
判決では「予防接種の際、注射器(筒、針)等を被接種者に対し連続して使用するならば、被接種者中にB型肝炎ウイルスのキャリアがおり、かつ、同人の血液が注射器等の針に付着し、または筒内の注射液に混入した場合には、その血液を介して、B型肝炎ウイルスが次の被接種者に感染し得るという点にあることが明らかである」と、集団予防接種における注射針・筒の連続使用が、肝炎ウイルスの感染源であることをわが国で初めて公式に認めている。しかし、個別の原告患者については、感染の因果関係が証明できないとされてしまったのである。

「日本の肝炎ウイルスキャリアは一定の年齢層より下の世代になると急に減ってきているのですから、原告の年齢からいってウイルス感染が予防接種の連続使用 に原因があることは明らかです。全国の高齢の患者さんたちは、そうしたことを何も知らずに病気に苦しんでいる。救済には一刻の猶予もありません」 (國中さん)

原告らはただちに札幌高等裁判所に控訴して、現在2審が争われている。


TOP