過去の病気ではない結核の怖さ

結核の患者が増加している。
厚生省は今年7月、「結核緊急事態宣言」を発し、保健所の対策機能強化や患者発生時の迅速で的確な対応、予防への取り組みなどを訴えた。
私たちは、この古くて新しい病気にどのように立ち向かうべきか。

吉村克己 (ルポライター)

結核緊急事態宣言を発令

今年9月、北海道の道立高校で男子生徒1人が結核を発症し、ほかの生徒や家族35人が結核に感染したことが確認された。また10月には福岡県内の県立高校で生徒など31人が結核に集団感染していることが発覚した。  
このところ、結核感染のニュースが立て続けに聞こえてくる。なんと病気を治すべき病院にも結核菌は侵入し、東京都板橋区の帝京大学病院では外科の医師が昨年8月から半年間、結核に感染していたにもかかわらず診察を続けていたことが6月に発覚。看護婦など37人が感染したという。
こうした事態を重く見た厚生省は今年7月、「結核緊急事態宣言」を発した。その宣言文を厚生省のホームページで見ることができる。  
宣言では、「結核は既に我が国で克服された過去の病気であるという錯覚」を戒め、「平成9(1997)年で約4万2000人の新規結核患者が発生し、約2700人が亡くなるという我が国最大の感染症」だと断じている。  
宣言が出された背景には97年から、これまで減少を続けてきた新規発生結核患者数が38年ぶりに増加し、また罹患率(人口10万人当たりの新登録結核患者数)も43年 ぶりに増加に転じたことがある。
同じく厚生省のホームページには、「平成10年結核発生動向調査年報」という最新の詳しい数字が載っている。それによれば、昨年の新規発生患者が4万4016人と、前年より1301人増加し、罹患率も34.8と前年より0.9増加した。驚いたことに、この罹患率はアメリカの5倍以上であり、ドイツ13.6などに比べても先進国の中で圧倒的に高い。これは1960年代前半のオランダに匹敵し、日本は30年以上も後れをとっているとのことだ。
年齢別に新規患者数を見ると、高齢者が大半を占めていることが分かる。60歳以上で55%に達するほどだ。また地域別の罹患率では大阪府70.1、兵庫県49.2と関西に偏っている。
この調査は(財)結核予防会結核研究所の協力で行われたが、結核関連情報に関しては同研究所のホームページが日本で最も充実しているのではないだろうか。  
トップページから、まずは「結核の常識」というコーナーに入ると、「結核のABC」など基礎知識を学ぶことができる。それによると、体力と栄養が充分で免疫機能が活性化しているときは、結核菌を吸い込んでも封じ込めてしまうそうだ。だが、菌を死滅させるわけではなく、肺の中で増殖を抑さえ込まれたまま、人間と一生を過ごす。そのため、免疫力が落ちてくると、発病してしまう。
高齢者の発病はほとんどこのケースだという。だが年齢ばかりでなく、徹夜が続いたり、極端なダイエットや、即席食品ばかり食べるなど栄養が偏っても発病する危険があるというから怖い。
症状は最初のうちは風邪と同じで、咳や痰、微熱が続き、医者にかかったとしても経験の少ない医師は結核の可能性を見過ごすこともあるという。  
このコーナーの頭にあるインデックスから「情報」欄に飛ぶと、結核の統計データが集まっている。「日本の結核の現状(解説)」では前出の調査年報の背景が詳しく解説されている。その分析によると罹患率が増えているのは高齢者といっても80歳以上であり、この世代の人口が増えたことで全体の増加につながっていることが分かった。つまり結核の増加は高齢化社会の一つの断面ということだ。  
ただ20歳代の罹患率もわずかながら増加しており、身近な高齢者や壮年層から感染している可能性が高いという。結核菌は咳などによって空中に飛び出し、吸い込むと感染するため、家族の一人が発病すると全員が感染しやすい。特に最近は空調やサッシの普及で部屋の気密性が高まり、感染しやすくなっているという。  
結核研究所の森亨所長は、「結核への正しい理解(あなどらず、おそれず)を広めることが所の使命であり、ウェブサイトもまさにこのための活動です」と語っている。

薬の効かない結核菌

結核に感染して、最もダメージを受けるのが乳幼児である。結核菌におそわれると一気に重症化し、髄膜炎や粟粒結核になり、死亡するケースも多い。  
兵庫県尼崎市医師会のホームページの「市民のための健康講座」には尼崎市保健所の金田治也所長による「小児結核の予防」が収録されており、参考になる。金田所長によれば、小児結核は生後2歳までと13~15歳の中学生で多く発生し、BCGを接種していない子供が60%近くを占めているという。  
そのため生後なるべく早い時期のBCG接種が必要となるが、「BCG接種は、すべての人に100%の免疫をつけることはできず、さらに時間とともに免疫は弱くなるのでBCGを受けても100%安心できない」(金田所長)という。小さい子を持つ親は、まず自らの感染に気をつけなければならない。  
我々もBCGを受けているが、いったい、何歳まで効力が続くのだろうか。読売新聞社のホームページには結核の特集が載っており、その答えがあった。「LIFE STYLE」というコーナーから「医療ルネッサンス」に入り、「ぶり返す結核」という特集を見ると、結核予防会の島尾忠男会長へのインタビューが掲載されている。島尾会長によればBCGは、「15年たてば効果は薄れ、20歳までに、結核の免疫はあまりない状態になります」という。
出産後、半年から1年目の女性も発病しやすい傾向があるそうで、成人したら誰もが結核予備軍ということだ。
この特集には、ほかにも興味ある記事がいくつもある。特に抗結核薬の効かない「多剤耐性菌」のレポートが目を引いた。 これは医師の不適切な処方や、患者が抗結核薬の服用を勝手にやめるなどするうちに薬剤耐性を身につけてしまった結核菌であり、生半可な知識しか持たない医師が治療に当たると、どの抗結核薬も無効となり、命を落とすこともあるという。専門病院での早期治療が必要とのことだ。今後、この多剤耐性菌による感染増加が気がかりだ。
ところで、結核の薬というのはどんなものなのだろうか。静岡県の病院に勤める薬剤師の佐藤賛治さんのホームページ「他では聞けないくすりのはなし」には、抗結核薬のことが載っていた。
「結核の話」として、3回にわたって佐藤さんが副作用などについて書いているが、基本的には「結核菌は最低六ヵ月薬を飲まないと退治できない。その間に菌が薬に慣れて抵抗性(耐性)になるので、3~4種類の複数の薬を飲まなければならない」とのことだ。
それを理解した上で、副作用としては視力の低下や頭痛、動悸などが現れることがあるという。実際に佐藤さんが担当していた患者の副作用の話も載っている。佐藤さんは、「結核は過去の病気ではなく、甘く見るといけないということを書きた かった」と語る。
結核以外にも役に立つ薬の話が満載なので、一度のぞいてみてはいかがだろうか。

(財)結核予防会結核研究所
尼崎市医師会
他では聞けないくすりのはなし

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