環境ホルモンは本当に危険なのか

環境ホルモンは本当に危険なのか

新たな環境汚染としてにわかに「環境ホルモン」がクローズアップされてきた。
人間の生殖機能への障害や癌の誘発などがとりざたされているが、
まだ実態は不明だ。マスコミ報道が過熱するなか、
インターネットでは環境ホルモンをどう扱っているか探ってみた。

吉村克己(ルポライター)

カップ麺の容器も危険!?

7月15日付の日本経済新聞で「環境ホルモンを含むプラスチック小粒子が全国海外で確認」との記事があった。
国立医薬品食品衛生研究所の全国調査でプラスチック製品の原料となるレジンペレットという直径数ミリの粒子が全国の海岸線に多数漂着していることが明らかになったというのである。

早速、同研究所に問い合わせると「一部のレジンペレットに環境ホルモンとされるノニルフェノールが含有されている可能性はあるが、PCBやDDEなどの物質は海水中から吸着したものと思われる」ということだった。こうした「容疑者」や「犯人」探しに熱中するメディアの過熱報道が環境ホルモン問題を逆に混乱させている。

環境ホルモンとはいったい何か。正式には「内分泌攪乱物質」と呼ばれ、体内に入ると女性ホルモン(エストロゲン)と似た働きをして健康や生態系に悪影響を与えるといわれている。
環境中に放出され、ホルモンのように作用するため、横浜市立大学の井口泰泉教授が環境ホルモンと命名した。現在、確認されているだけでノニルフェノールやPCB、DDEなど約70種類の化学物質が「犯人」とされている。

生殖機能への障害やがんの誘発、胎児・乳児への影響が指摘され、食器・ほ乳瓶・カップ麺・おもちゃなどからの溶出問題で大騒ぎになった。それに対して関係業界が反論するなど法廷闘争の様相を呈したが、事はそれほど単純ではないようだ。
国立医薬品食品衛生研究所ホームページのトピックス「環境ホルモン戦略計画SPEED'98」を見ると、環境ホルモンと呼ばれるさまざまな化学物質がどのような製品から検出されたか報告が掲載されている。

主に食器として利用されているポリカーボネートにはビスフェノールAという代表的な環境ホルモンが含まれているが、公立小・中学校のうち5240 校(約17%)が給食用食器として使用している。このほか、カップ・弁当・即席ラーメン容器などに使われているポリスチレンや、おもちゃなどの原料となるポリ塩化ビニールなどが調査対象となっている。

同研究所が今年六月末にカップ麺容器から内分泌攪乱物質が溶け出すことを確認したと発表したことに対して、日本即席食品工業協会は独自の実験の結果、指摘された物質に環境ホルモン作用はないと主張している。その実験内容など詳細については同協会公認のホームページ「即席麺家頁」に詳しく掲載されている。

塩化ビニールについてもグリーンピース・ジャパンが塩ビ製おもちゃの追放キャンペーンを始め、一部小売店も販売自粛の動きを見せるなどの騒ぎになっており、事態にあわてた塩ビ工業・環境協会が急遽記者会見を開いて安全性を訴えたが、消費者の納得は得られていないようだ。

「怖い、怖い」報道の弊害

専門用語や覚えにくい物質名が飛び交うこの問題では話が安直な方向へ流れやすく、ベースとなる知識を消費者が共有しているとは言い難い。

立命館大学二年生の赤堀由佳さんは環境ホルモンについて入門的な解説を載せたホームページがあまりないことに気づき、「文系人間のための環境ホルモン講座」を開いた。
赤堀さんは「環境ホルモンの問題は、分かる人だけが知っていればいいという問題ではなく、みんながちゃんと理解することが大切」と語る。
環境問題に詳しいライターの別処珠樹さんは環境ホルモンについて建設的な議論を促すために、個人ホームページ「学びと環境の広場」にイギリス環境局の『環境ホルモン報告書』の訳文を掲載している。

イギリス環境局は八六年から、ある秘密の研究を始めた。それは下水処理施設からの放流水に含まれる物質が魚に対して女性ホルモン様に働き、メス化を進めている謎を解明することだった。その経緯は『メス化する自然』(集英社)に詳しい。

別処さんは「『怖い、怖い』式の報道がある一方で、『何もかも不明の点が多すぎる』式の意見が多いのも事実。どちらも何か偏っている。何が問題なのかを明快につかんだ上で、どうすべきか今後の道筋をはっきり示すという困難な課題に敢然と取り組んだ成果がイギリス環境局のレポートだと思います」と語り、「不明だから、とりあえず調べるというのはもういいのではないか。どう対処するのか、いっこうに明らかでない」と指摘する。

内分泌系という複雑精緻な人間の機構が複数の物質によってどのように障害を受けるのか完全に理解するのを待てば時間がかかりすぎる。だが精子の減少や野生動物に起きている性器の異常、ふ化率の低下、オス化・メス化などの事実を前にして悠長なことはいっていられない。同時にあわてて、より危険な代替物質に乗り換えるのも愚かだ。

例えば母乳の問題がある。ダイオキシンは癌や奇形を引き起こす猛毒であることはよく知られているが、実は環境ホルモンの作用もある。ごく微量でも胎児や幼児には大きな影響を与える危険がある。とはいえ母乳をやめるのが賢明とは断言できない。

大阪で婦人科医院を開業している岡村博行医師は個人ホームページ「母乳育児への誘い」で母乳育児の重要性を訴えている。
岡村さんは母乳に一定のダイオキシンが含まれているのは事実としながらも、乳児の発育、感染防止、栄養補給に与える効果を考慮するべきだと主張する。ホームページではリスクを回避するための授乳方法や食べ物の取り方を解説している。

環境ホルモンは特定の製品を排除して一朝一夕に片づく問題ではなく、日本人の苦手な長期プランに基づき、優先順位を決めて対処していかなければならない。そのためにも個人々々が長く興味を持ちつづける必要があるだろう。

岡村博行「母乳育児への誘い」
各ホームページ

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