女性の身体と心から考えた「ピル解禁」

低用量ピル(経口避妊薬)が承認され、
日本の製薬会社はまもなく発売に踏み切る予定だ。
しかし、これまで使われてきた中用量のピルに副作用などの
問題が指摘されてきたことから、この低用量ピルも安全性が問われている。
ピル解禁は女性の体と心にどのように関わってくるのだろうか。
女性問題や環境ホルモンの問題に積極的に取り組む武田玲子医師に意見を求めた。

武田玲子(たけだ れいこ)さんクリニック玲タケダ院長
1981年大阪大学医学部医科学修士課程(衛生学)を卒業、同大学医学部医学科へ学士 入学。87年近畿大学医学部付属病院産婦人科、94年12月よりクリニック玲タケダを開業。

承認のための審議には疑問が多い


ピルは、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲストーゲン(黄体ホルモン)と呼ばれる女性ホルモンに似たステロイド剤を組み合わせた合成剤である。女性の 体は妊娠するとホルモン分泌が変わるが、ピルはこの妊娠状態とそっくりのホルモンになるように配合してあり、この薬を飲むと卵巣は「妊娠した」と判断して 排卵をやめ、精子が入ってきても妊娠しなくなる。これまで日本では「避妊薬」としてのピルは認可されておらず、実際には避妊薬として使うとしても、産婦人科の医師が月経困難症などの診断をつけて「治療薬」として、ホルモンの量が多い中用量といわれるピルを処方してきた。
今回の「ピル解禁」は、ホルモンの量を少なくした「低用量」といわれるピルが認められるようになったことを意味する。エストロゲンの配合量は中用量ピルの 3分の1から2分の1の50マイクログラム未満、黄体ホルモンの量を一桁くらい低くしたものとされ、女性は「避妊」のためにピルの処方が受けられるように なった。

ピルは1960年代にアメリカで認可されたが、日本ではエストロゲンが子宮がんの発がんに関与するといわれたことから認められなかった。さらに「性的モラルの乱れが心配される」として長らく認可が拒否され、九二年には「ピルで避妊するようになるとコンドームを使う人が減ってエイズが広がる恐れがある」として解禁が見送られてきた。
また、これまで用いられてきた中用量のピルは、血栓症や心血管障害を起こすほか、乳がんのリスクを高めるなど副作用が大きいことが指摘されている。低用量ピルは、ホルモン量を低くしたことで、副作用のリスクを格段に減らしたとされる。

 



私は低用量ピルの治験のデータには疑問があると考えてきました。そもそも治験とは、1種類の薬について検討されるべきものなのに、ピルにはプロゲストーゲ ンの種類によって第1世代、第2世代、第3世代とあり、これら3つのデータをひっくるめて承認申請に結びつけているのです。 
一つずつを見てみても、治験の脱落者が多いという印象を当初から持っていました。この脱落の内容を詳しく見ると、副作用により本人の意志で止めたり医師が 止めさせたり、それ以外の都合で止めたりといろいろな理由があります。ところが、薬の臨床試験というのは10%以上の脱落があれば副作用とみなすという薬 学的なコンセンサスがあって、中には52%くらい脱落があったという報告例もあるのです。そういうものもひっくるめて、欧米で長らく使われているというこ とを根拠に、最終的に安全だという結論が導かれているのはおかしいと思います。

私は低用量ピルの治験のデータには疑問があると考えてきました。そもそも治験とは、一種類の薬について検討されるべきものなのに、ピルにはプロゲストーゲンの種類によって第一世代、第二世代、第三世代とあり、これら三つのデータをひっくるめて承認申請に結びつけているのです。 
一つずつを見てみても、治験の脱落者が多いという印象を当初から持っていました。この脱落の内容を詳しく見ると、副作用により本人の意志で止めたり医師が止めさせたり、それ以外の都合で止めたりといろいろな理由があります。ところが、薬の臨床試験というのは10%以上の脱落があれば副作用とみなすという薬学的なコンセンサスがあって、中には52%くらい脱落があったという報告例もあるのです。そういうものもひっくるめて、欧米で長らく使われているということを根拠に、最終的に安全だという結論が導かれているのはおかしいと思います。

ピルは環境ホルモンとして働く

低用量ピルは服用を止めれば3カ月くらいの間にほぼ自然の月経周期が回復し、妊娠できる状態になるとされる。ピルは体内蓄積されることはなく、妊娠が起こってもその影響が現れるようなことがないという考え方が強調されている。こうしたことからピルは「可逆的な薬」といわれている。
しかし、ピルは、エストロゲンとそっくりの化学構造と働きを持ち内分泌を撹乱する「環境ホルモン物質」としての作用が注目されるようになってきた。
服用後の妊娠による次世代への影響などが心配されている。

日本でも中用量ピルで調べられていることですが、ピルの使用をやめたあとの妊娠ではしばしば先天異常を起こすことがあります。低用量ピルについても、例えば東京の赤十字病院で進められている厚生省の先天異常のモニタリングでは、新生児の口蓋裂が7割くらい増えているといわれます。 
アメリカの試算では、ピルを飲んで摂取するエストロゲンの量は、野菜などに残留している農薬を通じて摂取する環境ホルモンとしてのエストロゲン様物質の66億7千万倍の強さになるとされています。半減期を考えればピルのエストロゲンが農薬レベルに達するに100日かかることになり、ピルの環境ホルモンとしての影響はそのくらい長く続いていると考えられるかもしれません。
さらに環境ホルモン物質について、最近いわれるようになったのは、非常に量の少ないもののほうが、量の多いものよりもかえって悪さをする「逆U字型反応」を示すということです。ピルに使われている合成エストロゲンのジエチルベストロールという物質では、動物実験なども行われていて、非常に微量になった場合、むしろ量が多い時より生殖器に異常が出ています。ですから中用量のピルで異常が出れば低用量ではもっと危ないかもしれないわけですが、これまでの毒性の概念で見ている人たちには、このことが理解できません。実際ヨーロッパなどの論文などを見ていても、異常があっても「こんなに量が少ない段階で異常が出るはずがない」として最初からデータから除外されているのです。それは逆で、低いものでも異常が起こりうるということを考えて、今までのデータを全部見直していく必要があると思います。

女性が主体性を得ることにはならない

欧米などの使用経験から、ピルは避妊ばかりでなく女性の健康に「副効果」をもたらすといわれるようになっている。ピルを服用している人は、月経痛や月経による貧血を改善するという効果が得られる。また、長期にわたって服用すれば、動脈硬化が少なく、心筋梗塞など虚血性心疾患に罹る率が低くなるという。さらに、80年代後半に卵巣がんや子宮内膜がんのリスクも引き下げる効果があることが示された。

一方、女性は閉経期が近づくと、様々な体調不良が現れる「更年期障害」の症状が現れやすくなり、治療法としてホルモンを外部から補う「ホルモン補充療法」というものが取り入れられることが多い。これに対して欧米では、閉経期が近づいた女性に対して、ホルモン補充療法に代わって低用量ピルが使われるようになりつつあり、日本でもそうした副効果を期待する声が強い。
日本では中絶手術を受ける人は年間少なくとも40万人いるといわれる。これに対して、ピルは米国食品医薬局(FDA)などにより避妊失敗率は100人につき0.1人とされている。ピルは望まない妊娠を避けられる最も信頼性の高い避妊法であり、ピル解禁により、女性が主体的に子供を生むか生まないかを選ぶことができる時代を迎えたともいわれている。


ピルで卵巣がんが予防できるとする論文を読むと、治験に参加した全部の人を調査しているわけではなく、「死んだ人、重病の人、医者が拒否している人、自分 たちがいやな人」を除いたデータとなっています。そして、論文には「こうしたデータを含めると結論は変わってくるかもしれない」ということが書いてある。 にも関わらず、一方的に都合のいい情報だけが流されているという形になっているのです。
ピルがホルモン補充療法の代わりになるといいますが、そもそもホルモン補充療法ほどナンセンスなものはありません。これを有効だとする人たちは、閉経を迎 えた女性は「卵巣機能不全」という病気だと言っている。糖尿病にインシュリンを補充しなければならないように、・更年期障害の人たちは一生ホルモンを補充 しなければならない・と真面目に言っているのです。閉経してホルモンの足りない状態に移っていくというのが人間の自然な姿であって、それはまったく間違っ ている。最近はホルモン補充療法は乳がんだけでなく、子宮体がんも増やすといわれるようになっています。

避妊率からいえばピルはほとんど完全だといういう人もいるけれど、アメリカの効能書では避妊失敗率は5%と書かれています。それから、ピルを使うことので きるアメリカの若い人たちには中絶がむしろ年々増えているのが実情です。結局ピルというのは飲むと気分が悪くなったりするということあるし、飲み忘れると いうこともあって脱落率がすごく高い薬なのです。きちんと飲むということが難しい薬だといえます。
そもそもピルにより脳の働きを抑えて身体を妊娠状態にし、いつもセックスを受け入れる状態にしているというのは、けっして女性にとってのぞましい状態では ないと思います。私は今の状況ではコンドームをきちんと使うということがいちばん女性の身体にダメージを与えない、いい避妊法だと思います。むしろ、失敗 のないようにちゃんとコンドームを使えるようにするということが、女性が主体的にセックスを選び取るということではないでしょうか。


 


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