介護サービス利用者のための ガイダンス - 1

いよいよスタートする介護保険。
さまざまの問題を抱えながらの実施を同時進行で取り上げていきます。
介護保険は、みなさん一人ひとりのものです。
あきらめないで、使い勝手のよい制度にすることを一緒に考えていきたいものです。

中村聡樹 (医療介護ジャーナリスト

ゆらぎながらのスタート

いよいよ介護保険がスタートします。高齢者の介護を社会全体で考えていこうという新しい制度に、多くの期待と不安が寄せられています。
しかし、開始を目前に控え、制度そのものの仕組みが利用者によく伝わっていないことが表面化し、介護サービスそのものの供給量が十分に確保されていないなど、不安な点が指摘されています。
昨年末には、制度運営の見直しが決定され、介護保険料の徴収凍結や家族慰労金の支給など、総選挙を意識した政策的な判断が下されました。直前になってこうした見直しが決定される背景には、介護保険制度そのものがきちんとした詰めを行っていないことの現れかもしれません。
介護保険は、これまで国や県が主導となって行ってきた政策とは大きく違って、主導権が各市区町村の手にゆだねられています。小さな自治体では、はたして介護保険の運営ができるかどうか、かなり不安を抱えていたのも事実ですが、ようやく重い腰を上げて準備に取り組んでいた矢先のことだけに、突然の制度見直しは、その気持ちに水を差すことにもなりました。
さらに、追い打ちをかけるように、昨年10月から始まった要介護認定では、コンピュータによる一次判定に矛盾がおこり、正確な判定が実施されないのではという不安が利用者に広がりつつあります。
要介護認定は、介護保険を使って介護サービスを受けるときに、どの程度の介護が必要かを測る判断基準で、制度の根幹ともいえるものです。要支援、要介護1~5の6段階の区別によってサービスを利用できる限度額が決まります。判定に狂いが生じると、本来なら要介護4のはずの人が、要介護二の判定になる可能性もあるわけです。
せっかく介護保険を利用しようと決めたのに、正確な判定が受けられないとなると、利用者側からすれば、「保険あって介護なし」という不信感だけがつのります。実際には、コンピュータによる一次判定に加えて、医師や看護婦、保健婦といった専門家で構成された要介護認定委員会で二次判定が行われるので、高齢者の身体状況とかけ離れた判定結果は出ないとされています。
しかし、かなりの数の判定を短時間で行っていく事情を考えれば、一次判定での間違いが、パーフェクトに修正されることは考えにくいものです。


能動的ビジョンを持つ

そこで、まず介護保険を利用する側に立って、この制度を少しでも有効に利用できる方法を考えてみたいと思います。
これまで、福祉の分野は行政からの「施し」という側面が強く、措置制度として考えられてきたものです。それが、介護保険によって社会保険制度という枠組みの中で、被保険者が当然の権利としてサービスを請求できるようになりました。制度開始が間近に迫った段階で、多くの不安要素が明らかになっていますが、それだけで、制度そのものを否定することは残念なことです。
多くの混乱が予想されますが、何とかうまく介護保険を利用する工夫を、被保険者側が努力して整えていくことも必要だと思います。

そのためには、まず介護保険を利用する側の考え方を大きく変える必要があります。受け身ではなく積極的になること。自分自身の老後、あるいは介護を必要と している高齢者の家族が、どんな生活をしたいのか。自分たちの暮らしをどう作っていくのか、そのビジョンを明確にもつことです。
厚生省のまとめた資料を見ると、65歳以上の人で人生の最後の期間6カ月以上を寝たきり、痴呆などが原因でいわゆる要介護状態で過ごした割合は50%にのぼっているそうです。この数字を極端に解釈すれば、両親のうち2人に1人は寝たきり、要介護状態になると考えられます。その期間は5年7カ月。
この間の介護を考えると家族はボロボロになるまで介護にかかわらなければなりません。
「どこまで続くぬかるみぞ」という現実が待っているわけです。
しかも、こうした介護に直面するときは突然にやってくるものです。

秋田県鷹巣町ケアータウンたかのす脳卒中や脳梗塞という突発的に起こる疾病がきっかけとなって寝たきりになるケースが多数を占めています。そのとき、何の心の準備もなければ、ただあわてふためくしか方法がありません。
現実には、こうした事態が起こらない限り実感できるものではないし、考えないようにしたいと思う事柄です。しかし、その確率は2分の1を超えようとしています。
今は、親の問題ですがやがて自分自身が当事者となり、そしてその子どもたちの問題へと道はつながっています。その線上で、どんな暮らしを望んでいるのか、一度考えておく必要があるのではないでしょうか。

状態を正直に

介護保険は、「何がしたい、どんな暮らしがしたい」という要望があって、はじめて活用できる制度です。
今、まさに介護保険の利用を考えている人なら、介護の必要な人がどのような状況にあるか。日常生活において、できることとできないこと。将来どのような生活がしたいか整理しておくことが大切です。
その上で、上手な介護サービスを得る方法を考えてみましょう。そのために特別な難しい方法は必要としません。介護にかかわる専門的な用語を覚える必要などまったくないのです。要介護認定の細かな仕組みもこの際、重要な要素には当てはまらないでしょう。コンピュータの間違った判定に不安を感じることもありません。

要介護認定を受ける段階で必要なことは、正直になることだけです。保険の申請をすると各家庭に訪問調査員がやってきます。日常生活の動作や疾病、痴呆の有 無などが85項目の質問によってチェックされます。そのときに、見栄を張ってできないことをできると答えたりしないことです。
本人もさることながら、調査の段階で家族が恥をかきたくない一心から、できないことをできると答えるケースが最も多いようです。これでは、正確な認定は受けられません。
また、コンピュータソフトの間違った判定を覆すには、できるだけ詳しい症状を調査員に伝えておくことです。85項目のチェック以外に、「特記事項」として 聞き取り調査の内容が記録されます。この特記事項をできるだけ書き込んでもらうことが、専門家によって行われる二次判定で大きな判定材料になるからです。

プロと上手につきあう

介護サービスの利用方法については、介護のプランをたてることを手助けしてくれるケアマネージャーとの上手なつきあい方が成否の分かれ目となります。もちろん自分自身で、介護プランを計画することもできますが、サービス利用の手続きまで考えると、専門家の力を借りる方が合理的といえるでしょう。 
このサポート役を担っているのがケアマネージャーと呼ばれる人たちですが、その質には大きな格差があります。介護保険を円滑に運営するために、急造された資格制度ですから、知識はあっても現場経験のほとんどないケアマネージャーも存在しています。介護サービスを提供していく側が、今後考えなければならない大きな問題点でもあるのです。

ケアータウンたかのす老人保健施設しかし、このケアマネージャーを育てていくのも、ある意味では利用者の役割といっても過言ではないのです。わからないことを何度も確認し、満足のできる介 護サービス利用プランができるまで何度も要望を繰り返しましょう。どうしてもよい人間関係が作れないケアマネージャーなら、変更を求めてもかまいません。 とにかく、積極的に自分たちの求める介護のある暮らしを実現するために、どん欲になることが必要です。
介護保険が始まった当初は、おそらく大混乱が予測されます。その中に身を置くのですから、上手に使いたいという気持ちが何よりも大切です。そして、介護 サービスを提供する事業者と自治体がどこまで努力を続けてくれるか。ある意味で祈るような気持ちすら持ってしまうというのが実情です。
介護保険は、すばらしい制度だと私は思います。ですから何とかうまく使える制度に育ってくれることを希望しているのですが、こればかりは、始まってみないとわかりません。
利用者サイドの悩み、あるいは事業者や介護サービスの担い手一人ひとりが直面する問題点を、介護保険が始まったところでもう一度整理したいと思います。

次回は、介護保険の現場から、実際に起こっているさまざまな問題点とその解決方法を報告したいと思います。介護保険は、みなさん一人ひとりのものです。あきらめないで、使い勝手のよい制度にすることを一緒に考えていきたいものです。


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