介護サービス利用者のための ガイダンス - 2

いよいよスタートする介護保険。
さまざまの問題を抱えながらの実施を同時進行で取り上げていきます。
介護保険は、みなさん一人ひとりのものです。
あきらめないで、使い勝手のよい制度にすることを一緒に考えていきたいものです。

中村聡樹 (医療介護ジャーナリスト

スタートはしたが


介護保険制度がスタートしました。思いのほか、静かなスタートが切られました。当初の予想では、直後から大混乱が起きるのではないか、といった声も聞かれましたが、目立った混乱もなく推移しています。
し かし、こうした状況は、どうやら表向きのものにすぎないと考えた方がよさそうです。都道府県、市区町村、介護サービスを提供する施設、介護保険の利用者と いった具合にその範囲を狭めていくと、思い通りにならないという不満や不安を抱えている人たちの姿が見えてきます。介護保険の現場で、今何が起こっている のか、マスコミがとらえることができないだけで、現場では間違いなく混乱が起きています。大爆発の前兆、マグマの活動が盛んになっている状況と似ているよ うな気がします。

3月31日、介護保険がスタートする前日に話は戻ります。私は、全国の老人施設や市区町村で介護保険を担当している知人の方に電話をかけてみました。約50件近くかけました。そのほとんどの人から聞こえてきた声は、疲れ果てたもので、ことここに及んでは「もう開き直るしかない」といったものでした。
「必死に努力してきたが間に合わなかった。制度の不備がいくつも見えている。介護サービスを実施しようにも施設やサービスの担い手不足を痛感している」といったもので、翌日に介護保険のスタートを控えた段階では、もう開き直るしか対処法が残されていない状況にまで追い込まれている現場担当者の声でした。
現場担当者には、おそらくこの段階で介護保険制度がスタートすれば、利用者に満足できるサービスは提供できないだろうという予感がすでにあったのだと思います。ところが、始まってみると、予想に反して問題が顕在化する状況には至っていません。


介護サービスを提供する人たちに蔓延していた危機感は、実際に介護保険を利用する人たちの無関心と介護保険に対する理解が乏しいことによって救われるとい う皮肉な結果が待っていたわけです。介護保険制度が開始されて2ヶ月。成熟にはほど遠い介護保険制度が、曲がりなりにもスタートを切れた背景には、利用者 の制度に関する関心度の低さが大きく寄与しています。このままでは、介護保険制度が本来持っている機能がまったく活かされないまま、何となく運営されるこ とになりかねません。家族だけではとても面倒がみられない高齢者の介護を、社会全体で考えていこうという発想は、絵に描いた餅にすぎない状況へと進みつつ あるという危機感を利用者一人ひとりが自覚する必要があるようです。

理解されない問題点


そこで、介護保険制度を利用する人たちに何が欠けているのか。介護サービスを提供する現場での問題、さらにどうすればこの事態を解決できるのかを少し考えてみたいと思います。
まず、介護保険を利用する人たちの状況を見てみましょう。正直言って、これほどまでに介護保険制度が理解されていないとは予測できませんでした。介護保険を利用するために必要な手続きの段取り、保険料の支払いが発生すること、介護サービスの利用には、かかる費用の1割を自己負担しなければならないことなどが、大筋ではわかっていても、実際に利用に結びつく段階ではとても実用できるほどの知識として浸透していません。

介護保険を利用するためには、市区町村の窓口に利用の申請を行い、要介護認定を受ける必要があります。この第1段階の手続きに関しては、かなりの方が理解しています。
しかし、要介護認定を受けた後、どのような手続きをして実際のサービス利用が始まるかは、あまり知られていません。おそらく、介護保険の申請を行った段階でストップしているお年寄りがかなりいることが予測されます。例えば、次のような事例がありました。市区町村から送られてくる要介護認定の通知書を手にしたあるお年寄りは、これで介護保険の手続きが終了したものと間違った解釈をしていました。
自宅に届いた要介護認定通知書は、A4版の茶封筒に、その他の資料とともに送付されます。市区町村によって、書類の種類や形式は違いますが、こうした膨大 な資料を手にしたお年寄りにとって、自分の要介護認定がいくつになったのかを知るだけでも一苦労です。この段階で、その後の手続き方法まで理解できるお年 寄りの数は、かなり限られているのではないかと思います。


私もどういった要介護認定通知書が届くのか興味があったので、実際に申請をしたお宅にお願いして見せていただきましたが、介護保険の知識が全くない人が、すぐに理解できるものではない印象を受けました。
住所、氏名、電話番号など細かな個人情報が書き連ねられた書類を順に見ていくと、ようやく、書類の真ん中あたりに、要介護認定が書かれています。
しかし、その先の手続き方法に関しては、認定通知書に添付されている15ページ以上にも渡って細かな文字で書かれた資料を読まなければ理解できません。

ケアーマネージャーと早めにコンタクトを

はたして、何人のお年寄りがこの資料を読むのでしょう。認定結果をもとに、ケアマネージャーと呼ばれる相談員の手を借りながら、これから先の介護サービス利用の計画を立てることが、介護保険の利用を始めるために欠かせない手続きなのですが、そのための方法が理解されないままに放置されているというのが現状です。
「要介護認定を受ければ、これまで通りの介護サービスを受けられると思っていました」という声を何人からも聞いています。おそらく、利用者のお年寄りにしてみれば、介護保険を使うためには、保険の利用申請だけを済ませればよいといった理解が広がっていたように感じます。
膨大な資料を読まなければ、手続き方法がわからない。要介護認定通知とその先の手続き方法があまりにも複雑化していることが、こうした問題を引き起こしている原因です。

認定通知書に、「この通知を受け取ったらまず、こちらに連絡してください」というシンプルな誘導がなされていないことに、腹立たしさを覚えました。
結果的に、介護保険を利用したいと思っていても、その手続き方法がわからないままに停滞しているお年寄りがかなり存在しているのが実情です。制度の運営に かかわる問題が顕在化しない問題が、実は、利用者の介護保険に対する理解不足にあったことは、こうした事例で十分に理解されたと思います。
しかし、このままの状態で放置することはできません。利用者に積極的に声をかけてケアプランを作成し、介護サービス事業者との契約を進めなければ、「保険あって介護なし」の状況が深刻化するだけです。

そこで、その役割を押しつけられているのが、ケアマネージャーです。認定を受けてそのままになっているお年寄りにアプローチして、ケアプランを作る必要が あること、さらにサービスの利用には自己負担が必要であることなどを説明しながら、介護保険の利用ができるように導く役割を求められています。
とはいっても、1人のケアマネージャーがいったい何人の利用者の面倒をみられるのでしょうか。厚生省の考え方では、1人のケアマネージャーが50人の利用者を担当する目標が掲げられていますが、これは不可能な数字のような気がします。
利用者1人の自宅を訪問して、どんな介護サービスを利用したいのかを聞き出すだけでも相当な時間が必要です。サービスひとつひとつの内容を説明し、利用者 の置かれている立場や健康状態、あるいは家庭環境などを考慮して、最適のサービス計画を作り上げるには1、2時間の面談で結論を出すことはできません。
さらに、細かな手続き方法や料金の説明などを加えると、ケアマネージャーの仕事は膨大になります。実際には、利用者個々の問題を親身になって解決していく きめ細かなサービスはできないというのが現状です。とくに、介護保険制度のスタートが迫っていた3月後半頃は、内容はともかく、サービス利用が始められる ところまで辿り着くことが優先されて、要介護度別にパターン化されたケアプランが組まれたケースも少なくありませんでした。

進まぬケアプラン

その結果、利用者の健康状態を考えた場合、現段階では必要のないケアサービスを受けているお年寄りも少なくありません。一方では、ケアプランが作成されないで介護保険を利用できないお年寄りも存在しています。この悪循環が、かなり多くの市区町村で実際には起こっているのですが、まだ現状の把握が進んでいないことから明らかにされていません。
こうした現状を前に考えるべきことは、介護保険の将来といった大きなテーマではなく、いかに利用頻度を高めていくかの一点に集約されるような気がします。もう一度原点に立ち戻って、介護保険の仕組みを広く浸透させる努力が必要です。
介護保険の利用を考えている人は、その手続き方法を細かく知ることに自力で取り組むしか方法はなさそうです。

すでに利用を始めている人たちから情報を集めたり、ケアマネージャーと1日でも早くコンタクトをとって下さい。
このままでは、介護保険という大きな流れの中に飲み込まれてしまう危険性があります。介護保険制度が始まった段階で、完璧なものが望めないことは多くの人が理解していたでしょう。しかし、その利用方法がわからないままに動き出している現状を見ると、制度そのものと利用者の間に相当大きな温度差があることが見えてきました。この差をいかにして埋めるのか。次回は、その具体的な取り組みを中心に報告します。


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