予防など応用広がる鍼灸治療

鍼と灸による鍼灸治療への認識が変わりつつある。
鍼灸効果の科学的研究も進み、予防医療や疼痛治療、不妊治療などへ、その応用が広がり始めた。

吉村克己(ルポライター)

WHOも認めた効果

鍼灸治療をいまだに気休め程度に考えている人が意外と多い。
だが、現在では鍼灸の治療効果は明確にあると世界の公的機関も認めている。
国家資格を持つ鍼灸師たちの団体、社団法人日本鍼灸師会のホームページにはアメリカ国立衛生研究所(NIH)が「鍼灸療法の各種の病気に対する効果とその科学的根拠、西洋医学の代替治療として効果について有効であると発表」したと明記されている。
また世界保健機構(WHO)が複数の病気に対する鍼灸の有効性を認定していることも記載されており、肩こりや腰痛などだけでなく、胃炎、腸炎、慢性関節リュウマチ、気管支炎、気管支喘息、メニェール氏病などにも効果があることが分かる。
同会サイトには鍼灸の基本的な事項が簡潔にまとめてあり、最寄りの鍼灸院が検索できる「鍼灸ネット」も併設しているので、鍼灸の初心者には便利だ。
それでは、なぜ鍼灸がこうした病気にも有効なのだろうか。鍵はツボである。ツボについて調べているうち「ツボ探検隊」というサイトを見つけて驚いた。ツボの写真が載っているではないか。
神戸にある松岡鍼灸院が運営するこのサイトによると、ツボとはまさしく字の通り皮膚の下が壺状になっている筋肉組織であり、身体に歪みが生じる(不健康になる)と、ツボに現れるのだという。
そして、ツボは押すとぺこんとへこみ、目に見ることもできる。不健康時は表皮細胞が劣化するので、周囲より微妙に暗く見えるという。
人体には「経穴」と呼ばれるツボが主に関節に沿って約350個ある。このツボを鍼や灸によって刺激することで治療効果を得るわけだが、なぜ病気に効くのかはいまも科学的に解明されていない。

ツボを科学する

「ツボ探検隊」を開設した松岡鍼灸院の松岡佳余子さん(鍼灸師)はこう語る。
「鍼灸医学をいまだオカルトや祈祷術などと同類と思い込んでいる人が非常に多いのです。とくに肝腎の医師に多いのは本当に困ったものです。現在では欧米の医師よりも日本の医師のほうが中国医学に対する無知がはなはだしい。これは明らかに是正すべきです」
ツボ探検隊を見て、鍼灸医学に興味持ち、鍼灸免許を取得した人は50人以上もおり、海外からのアクセスやメールも非常に多いという。英語版はないのに、アメリカのハーバード大学やイギリスのオックスフォード大学などから頻繁にアクセスがあると松岡さんは言う。
「鍼灸医学は人体の〝観察〟から端を発し、あくまで科学的精神に導かれて発達した医学であることを訴えたい」(松岡さん)という意図を、海外の人たちのほうが理解しているのかもしれない。
東洋医学研究所の黒野保三所長も「社会的に鍼灸医学・鍼灸診療・鍼灸師に対す認識の低さを正したい」と考えている。
黒野所長はこれまで自ら施した鍼灸治療を通して、ツボの刺激による実証的医学研究を行ってきた。その結果、特定のツボと治療効果の関連性を突き止め、「黒野式全身調整基本穴」を定めた。
同研究所のサイトにはこうした考え方と研究成果が掲載されており、黒野所長に師事する鍼灸師が集まって作った東洋医学研究所グループ参加の鍼灸院一覧を調べることもできる。

予防医療に活用

黒野所長は「鍼灸医学・鍼灸治療」という論文の中で、こう述べている。
「(鍼灸治療に関する)いずれの研究結果も鍼治療の有効性についての一つの現象による証拠をとらえたもので、そのメカニズムについては明らかにすることができていない。(中略)経穴に鍼を刺入した時点での生理学的・生化学的検証も明らかにしなければならない。(後略)」
だが、科学が鍼灸のメカニズムを解明できるのはまだ先のことであろう。
東洋医学研究所のサイトでは現在、鍼灸による予防医療に力を入れており、マウスを使った実験も行っている。
50匹のマウスに2年間、鍼治療を施し、何もしなかったマウスと比較したところ、自然治癒力など身体の防御機能に活性化が認められたという。
サイトに掲載された写真を見ても、明らかに鍼治療を施したマウスのほうが毛の色つやがよく、丸々と肉付きもいい。
広島県尾道市にある青山鍼灸院が開設した「はり・きゅう・マッサージのひろば」には〝日本鍼灸マッサージ新聞〟という専門紙コーナーがあり、その記事の一部を読むことができる。
学会や保険関係、業界ニュース、研究報告などが網羅されており、鍼灸の最前線の動きを知るにはちょうどいい。
その学会ニュースでも予防医療は注目されていることが分かる。2004年11月17日付の「予防医療の最前線をめざす」という記事では、昨年10月に開催された日本東洋医学系物理療法学会の大会における報告として、今西二郎・京都府立医科大学教授が鍼灸マッサージは免疫能を増強する効果が有意にあると発表したことが書かれている。だが、鍼灸師や鍼灸院側に予防医療に対応できるような環境が整っておらず、社会的な普及は今後の課題のようだ。

重要な女性鍼灸師

予防医療以外にも鍼灸の治療効果が期待されている分野は多い。その一つが「スポーツ鍼灸」だ。これはスポーツによるねんざ、骨折、腰痛などの傷害の治療、予防、リハビリなどに鍼灸を活用するものだ。
1996年に神奈川県の鍼灸マッサージ師などの団体が集まって発足した「スポーツ鍼灸セラピー神奈川」はスポーツ鍼灸の普及に力を入れてきた。
鍼灸マッサージ師によるスポーツボランティア活動を通じて、スポーツ鍼灸を広めながら、同会の会員に対して三等級による認定制度を実施している。最上のA級はスポーツイベントなどでリーダー活動ができる能力を示している。
日本鍼灸師会でも「スポーツ鍼灸委員会」を発足させ、スポーツ鍼灸に取り組む鍼灸師のデータベースなどを作っている。
鍼灸がスポーツ傷害の治療に利用されるのも痛みの緩和効果があるためだが、大阪医科大学ではペインクリニック(疼痛治療)に鍼灸を取り入れ、現在、20名以上の灸師が医師と共に治療に当たっている。
また、鍼灸は不妊治療としても近年、注目を浴びており、女性患者に対応するために女性鍼灸師の役割が増している。
女性鍼灸ワールドネットワークは女性鍼灸師の情報交換などを目的として発足し、2000年に第1回大会が開催された。
設立したのは金沢県で鍼灸院を営む前山文子さん。
「女性の鍼灸師は結婚や出産で仕事の中断を余儀なくされ、結局、再開するタイミングや勉強の機会を逸して、復帰を断念してしまうケースが少なくありません。また復帰したいが、どうしたらいいか分からずに年月が過ぎてしまうという悩みも多く聞きました。そこで、女性鍼灸師たちが情報を交換し、お互いに刺激を受けて成長し続けることができればとこの会を発足させました」
女性鍼灸ワールドネットワークではアメリカで活躍している日本人の女性鍼灸師とも交流し、サンフランシスコなどで大会も開いている。国際的に女性鍼灸師たちが交流することで今後、新たな鍼灸の流れが生まれるかもしれない。


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