オーダーメイドのリハビリを考える

2006年4月の診療報酬改定でリハビリテーションは厳しい状況に追い込まれる。
その中で、個を尊重した新しいリハビリの在り方を模索する動きをレポートする。

吉村克己(ルポライター)

国のリハビリいじめ

いま、リハビリテーションの現場は大混乱に陥っている。2006年4月から実施された「平成18年度診療報酬改正」によって、行政による“リハビリいじめ”としか思えないようなリハビリ治療に対する厳しい要求が次々と突き付けられたからだ。 まず第一に、病院内で行われる医療リハビリに対して実施できる上限日数を設けたこと。高次脳機能障害など脳血管疾患等の発症後リハビリは180日を最長として、肺疾患などの呼吸器リハビリはわずか90日で打ち切られる。 発症後6ヶ月たてば訓練をあきらめるか、自己負担で続けるしかないのだ。一部、除外疾患はこの打ち切り対象ではないと実施間際で厚生労働省は発表したが、それでも「医師により改善が期待できる場合のみ」という条件が付く。すなわち、機能を 維持 できているだけでは、やはり打ち切られてしまう。その結果、症状や機能が悪化しようと、お構いなし。ともかく、医療費を抑制し、財源を確保することしか行政は頭にないようだ。 

こうした過酷な仕打ちに対して、患者や家族などの関係者は即座に反発の声を上げた。 国際的な免疫学者である東京大学名誉教授の多田富雄さんもその1人。多田さんは2001年に脳梗塞で倒れ、その後遺症で半身マヒになった。その後、リハビリによって50メートルほど歩いたり、パソコンを使って本を書くまでに回復したが、今回の措置は「障害者に『死ね』と言うのも同じことだ」と怒る。 そこで、多田さんを代表として「リハビリテーション診療報酬改定を考える会」が結成され、打ち切り制度撤廃の運動を始めた。5月にホームページも開設、署名活動を始めてわずか2ヶ月ほどで44万人の署名を集め、請願書とともに行政側に提出したが、いまだに回答はないという。同会事務局によれば、「日々励ましやご助言など様々なお言葉をいただいております」という。

ADLからQOLへ

リハビリとはそもそも「本来の状態への回復」を意味する。それは決して機能の回復だけではない。財団法人日本障害者リハビリテーション協会が運営する「障害保健福祉研究情報システム」のサイトには、同協会発行の『リハビリテーション研究』の内容が掲載されており参考になるが、その1990年9月号(第65号)で、竹内孝仁さん(国際医療福祉大学大学院教授)がこう書いている。「リハビリテーションには、『本人の能力』と『周囲の受け入れ』の2つの要素が関係し、この両者がうまくかみ合わないと、リハビリテーションつまりもとの生活の回復はできないことになる」世界保健機構(WHO)はリハビリの定義を医学的・社会的・教育的・職業的手段を組み合わせ、かつ相互に調整して訓練あるいは再訓練し、それによって障害をもつ者の機能的能力を可能な最高レベルに達せしめることとしている。日常生活の能力や身体機能を回復させる医学的リハビリだけでなく、教育や職業など社会的リハビリが必要だ。そのために周囲の受け入れが大切になる。こうした考え方は障害者のノーマライゼーションの考え方とともに登場し、リハビリの意味も障害者のADL(日常生活動作)における自立からQOL(生活の質)の向上を重視する方向に変わってきた。

介護リハビリは未整備

厚労省の今回の措置も一見、QOLを目指す流れのようにも見える。というのも、医療リハビリを打ち切る代わりに介護保険による在宅や通所リハビリに移行できるからだ。そのほうが政府にも都合がいい。なぜなら介護保険によるリハビリの報酬のほうが医療保険による診療報酬より大幅に安いためだ。介護保険制度も2006年4月に大幅改定され、予防重視型のサービスが追加。介護予防通所リハビリや介護予防訪問リハビリサービスが受けられるようになった。 在宅や近所でリハビリが受けられるのはQOL向上のためによさそうだが、まだ施設や人員が不足していることや、医療リハビリに比べてノウハウやスタッフの質と量、器具類の性能が劣るおそれもある。 そのうえ、介護保険で給付対象となるのは65歳以上が基本だ。40歳以上65歳未満では脳血管疾患、糖尿病性関連疾患など特定疾病と認定された人だけに給付は限られる。この対象から漏れたら介護リハビリも受けられない。厚労省は2006年1月に「高齢者リハビリのあるべき方向」という報告書を発表している。その冒頭には「要介護になっても自立を促すリハビリテーションの充実は、わが国の高齢者の医療と介護において最重要の課題と言えよう」と書いてあるが、言っていることとやっていることが違う。 この報告書にはリハビリサービスの実施状況のデータがあるが、医療リハビリでは理学療法(運動療法・物理療法・温熱療法など)だけで、1ヶ月当たり約82万件だ。 一方、介護リハビリでは1ヶ月当たり介護療養型医療施設において理学療養が約6万件、通所リハビリでは療法を問わず約44万件、訪問リハビリにおいてはわずか2万件しかない。打ち切りを強行するにしても、まず受け皿を十分に用意するのが当然だろう。

統合リハビリへの期待

この通所リハビリなど介護予防サービスで注目されているのが「パワーリハビリ」だ。運動器機能向上が加算単位として新設されたために、機器を活用したマシントレーニングを導入する動きが加速している。 筋力強化のためではなく弱い負荷で使っていない筋肉も呼び覚まし、調和のとれた筋力向上で転倒や骨折予防などに役立てる趣旨だが、その理解がスタッフに浸透していなければ、無理な筋力強化で逆に利用者がケガをするおそれもある。機器を使わない筋トレでも効果があると、パワーリハビリに反対する専門家も少なくない。「実は近年、簡単な鍼灸治療でも転倒予防に役立つことが東北大学の研究で明らかになりました」と、後藤学園中医学研究部の兵頭明部長は語る。 鍼灸など中医学の治療・予防効果は国内外で広く認められているが、兵頭部長は「患者の全身状態を把握し、身体全体のバランスを整える中医学の考え方がリハビリに役に立つ」と語る。このように西洋医学や東洋医学などの療法を統合的に動員して行う「統合リハビリ」は単に機能の回復を目的とするだけでなく、患者の体質、年齢、性別、その日のコンディションなどを全人的に把握して各個人に最適の処置を講じるためQOL向上にも役立つ。 会田記念リハビリテーション病院(茨城県)の五十嵐康実副院長が統合リハビリの概念を先駆的に打ち出し、2004年から実験的に同病院で実践し始めた。 意欲的な試みでスタッフたちも熱心に取り組んだが、理学療法士・作業療法士など「セラピストの人数が不足しており入れ替わりが激しい」ことと「病院経営が厳しい状況にあり鍼灸師が雇用できない」(五十嵐副院長)などの理由から、現在は残念ながら一時中断しているという。 4月の診療報酬改定で複数の利用者が同時に受ける「集団リハビリ」が廃止されたこともリハビリ専門病院の経営を追いつめている。本気で患者や高齢者のQOLを考えるならば、厚労省は統合リハビリなど先駆的取り組みに対して支援するべきではないだろうか。


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